時々の雑記帳

音楽のこと、ポリーニのこと、日々の雑感を、
時々(気まぐれに)、書き入れます。

更新状況もここに載せます。
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このほかの日記帳はこちらを、すぐ前のものは「夏」7〜9月を、後のものは「冬」1〜3月をご覧ください。

(10月〜12月)

青空を仰いで
銀杏の葉が地面を黄色く染めた上に、紅い紅葉が散り、青い空に映える頃となりました。もう師走も下旬、冬の寒さへ気を引き締めながら、年の瀬の慌ただしさに日々のみ込まれていきます。
この秋を振り返ると、様々な思いに満たされます。

マエストロ・ポリーニのご様子は、なにより気になりました。パリのリサイタルは健康のため中止、チューリッヒでは無事に行われホッとしましたが、曲順などで少し混乱があったようです。今年最後となるジェノヴァのリサイタルは、やはり健康上の理由で来春へ延期となってしまいました。残念なことですが、まずは健康を回復し、お身体を大切にしてゆっくり過ごしていただきたいと、祈るような思いです。

コロナは少し収まったようで、引き籠っていた私も外出の機会が増えました。友人との小旅行、家族での食事会、音楽会、展覧会、また紅葉狩り(と言うほどではないけれど)散策へ。穏やかな時を、また久しぶりに刺激のある時を楽しみました。健康に過ごせたことに感謝しています。日本の社会にも安心感が広まってきたようで、ホッとしています。

けれど世界では・・・終わりの見えないウクライナ戦争、疲弊した国際社会には不安と不信が渦巻き、今なお生死のはざ間で苦しむ人々がいます。やりきれない思いでいるところへ、10月7日、突然にガザでの戦闘が始まりました。パレスチナとイスラエルの間には長い暗い歴史があり、ハマスの攻撃も単に「テロ」と断言することはできないのに、イスラエルの報復は徹底的に攻撃し、壊滅し尽くすもの。子供・女性・老人はじめ非戦闘員の市民は本来なら保護されるべきなのに、病院や学校などは標的にしてはならないのに、無差別に容赦なく攻撃し、死者も怪我人も莫大な数に上ります。避難を強いられた土地でも安全とはほど遠い状況に苦しむ避難民たち。「天井なき監獄」と言われた地域が「地上の地獄」になってしまった、理不尽で非人道的な戦争。すぐに停戦を!と願っても、国際社会の足並みは揃わず、利害関係や力関係が絡んで右往左往するばかり。全く希望の見えない世界。地球の温暖化という難題もあるのに、人類は一体、何をしているのでしょう・・・。

私事ですが、先日、久しぶり(5年ぶり!?)にサントリーホールへ行きました。生のピアノの音に触れたくて、ツィメルマンのリサイタルを聞きに行ったのです。プログラムはショパンのノクターンとソナタ第2番「葬送」、ドビュッシー「版画」とシマノフスキの「ポーランド民謡の主題による変奏曲」。
"ショパンのノクターン"として万人に愛されるop.9-2、op.15-2が美しい音色でロマンチックに、op.55-2とop.62-2が次第に深みを増して奏されていくのは、聴き応えあるものでした。ただ最後のノクターンはもう少しゆったりとしたテンポで聞きたかった・・・(私にはショパンの辞世の曲と感じられるので)深々と、言い尽くせぬ万感の籠った曲として。
ソナタ第2番はとても速いテンポで奏され、見事な技巧と熱い迫力に圧倒されました。葬送行進曲は重く深い哀しみを湛えて進み、フィナーレは”新しい墓に吹く風”というより、激しい慟哭のよう。かつてツィメルマンがポーランドの音楽家たちと録音した、ショパンの2曲のピアノ協奏曲。その激しさ、濃厚なロマンティシズムを、思い起こしました。
後半のドビュッシーは「版画」の名のように、異国の光景や雨の情景が目に浮かぶ、情緒豊かな演奏でした。
最後のシマノフスキの大曲は、私は初めて聞く曲でした。10の変奏曲が続けて奏される、技巧的にも高度な難曲で、息詰まるような力演、熱演でした。
ツィメルマンは長い楽譜を置いて演奏し、1曲ずつ終えては自分でページを捲っていく(こういうやり方もあるのね、と感心した次第です)のですが、最後の曲はちょうど良い区切りが無かったようで、演奏途中で”バサッ”と捲っていました。
この変奏曲の第8変奏は「葬送行進曲」で、弔いの鐘の音が響くかのようでした。
前半と後半の2つの葬送行進曲。2つの戦場の犠牲者達への弔いの曲、その死を悼む曲と聴くのは、考え過ぎでしょうか。平安を祈り、平和への願いを込めて演奏されたと、私は深く心に留めています。

今年も残り僅かとなりました。この一年、私のHPをお訪ねいただき、掲示板にもお知らせやご感想をお寄せいただき、ありがとうございました。師走(しかも冬至!)になって「秋」の更新?とか、メンテナンスも出来ず、掲示板にもお返事できずにいたこともありましたが、お許しください。

来年はどんな年になるのでしょう。
「新しい戦前になるんじゃないでしょうか」とタモリ氏が言ってから1年。そんな様相があちこちで見られる日本です。そして世界では「戦中」が続いています。新しい年は、平和に向かって大きく舵を切るような世界、そして日本になるよう願って、筆をおきます。

皆さまにとって明るい、平和な、良いお年となりますよう、お祈りしております。

2023年 12月22日 12:15
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