時々の雑記帳

音楽のこと、ポリーニのこと、日々の雑感を、
時々(気まぐれに)、書き入れます。

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このほかの日記帳はこちらを、すぐ前のものは「春」4〜6月を、後のものは「秋」10〜12月をご覧ください。

(7月〜9月)

猛暑 心ざわめく日々
近くの散歩道に百日紅の並ぶ処があります。青空に映える濃い紅色、薄いピンクや白も優しい風情で、繊細な花姿も好きなのですが、今年はあまり目にすることができませんでした。というのもコロナ禍、連日の熱中症注意報・警報で、外出を控えざるを得なかったのです。
先日久し振りに訪れると、花の色は褪せ花びらも散りはじめていました。100日も終わりに近づいているようです。朝夕の涼しさ、夕暮れの早い訪れ・・・もうすっかり秋なのですね。(と言いつつ、遅い「夏の雑記帳」を書いています。)

長い猛暑、ほぼ家の中だけで過ごす、ちょっと鬱々とした夏でした。社会の状況も、コロナ禍のもたらす鬱から、怒・哀(喜・楽は少なく)を感じるような、心穏やかでいられない問題が山積の、日本の夏でした。
”特定宗教団体”と政治家の癒着、法律を無視した”国葬儀”の決定と強行など、日本の民主主義の曲がり角になるかもしれない怖れと、それを正そうとする動きに、真実が明らかになり新たな方向が開けるかとの期待と、また、やっぱり諦めと。心を強く保っていなければ!と思います。

一方、世界ではイギリスのエリザベス女王の崩御があり、今まさに国葬が行われています。大英帝国から英連邦へと変遷する時代に、70年の長い在位を全うし、首長として象徴として生涯をかけて尽くした方。多くの国・地域を結び、優しさ、包容力、機智とユーモアで世界中の人々を魅了した女王。死を悼む気持ちが、祈りの言葉が、自然に心に浮かぶように思います。

さて。

マエストロ・ポリーニのザルツブルクでのリサイタル中止は、本当に心配なニュースでした。心臓の理由で急遽取りやめになった、なんて!
5月の韓国訪問は健康上の理由で取りやめとなったものの、月末にはミラノでウクライナ支援リサイタルを行い、健康を取り戻されたと思っていました。そして2か月ほど休養されて、夏の音楽祭にはお元気で臨まれると思っていたのですが・・・。マエストロもそのお心算だったのでしょうに。
1973年のデビュー以来、ほぼ毎年のように出演し、様々な曲を披露したリサイタルはもちろん、名指揮者やオーケストラとの共演で聴衆に感銘を与えたマエストロ。95年には”プロジェット・ポリーニ”という斬新なシリーズで音楽祭に新風を吹き込み、99年にも”プロジェット・ポリーニU”を行って、古典派・バロック以前の中世の音楽から現代作品まで、音楽の歴史を俯瞰し体験するという、意欲的な活動を行いました。
貴重な活動の舞台として力を注いだザルツブルク音楽祭。音楽祭主催の側からも、大切な欠かせない演奏家であるマエストロ。半世紀にわたる長い関係を記念し、ポリーニの80歳を祝って、リサイタル後には栄誉のゴールド・ピンが贈られることになっていたのです。
急に取りやめになった演奏会、満場の聴衆の驚きと落胆、主催者の心労は想像に難くありませんが、ポリーニ自身が一番無念だったろうと、その心中を思うと胸が痛みます。
その後数日のうちに、体調が回復しミラノのご自宅に帰られたと判って、一安心したものでした。

そして先日明らかになったアメリカ・ツアーの中止。残念な思いと、あぁやっぱり、という感じと。長い空の旅、時差や気候の差などを考えると、ドクターも慎重にならざるを得ないのでしょう。

シカゴでは同郷の指揮者ムーティさんとの共演を、お二人とも楽しみにしていたことでしょう。今シーズンでシカゴ交響楽団と契約を終えるムーティさん、手塩にかけたオーケストラと、二人がよく共演するモーツァルトの作品、最後のピアノ協奏曲はきっと素晴らしい演奏になったことでしょう。録音も!などと夢見ていたのは、私だけだったかしら?

ニューヨーク、カーネギーホールもポリーニの活動に欠かせない舞台です。1968年初登場(ショパンの協奏曲第2番)、75年からはソリストとしてほぼ毎シーズンに登場し、1995-96シーズンにはベートーヴェンのソナタ全曲演奏を行いました。1999年〜2001年には2シーズン3年にわたって壮大な”パースペクティヴス・ポリーニ”を開催しました。ポリーニが全てに出演したわけではないけれど、大西洋を挟んでの活動、全27回のシリーズに掛けたエネルギーは、莫大なものだったでしょう。
旺盛で意欲的な活動を支えたカーネギー・ホールとその聴衆。コロナ禍で2シーズンが失われた後で、久しぶりのニューヨークの聴衆との再会を、きっと楽しみにしていらしたことでしょうに。本当に残念なことですが、一日も早い体調の快復を願うばかりです。

Replaceとして、若い日本のピアニスト、藤田真央さんのカーネギー・ホール・デビューが行われます。
2017年クララ・ハスキル・コンクールで優勝、2019年チャイコフスキー・コンクールでは2位、ゲルギエフに絶賛され、共演も果たし、その後世界各地で活躍している24歳の日本のホープです。
来年の1月25日という少々先の日付ですが、耳の肥えた聴衆の高い評価と、温かい声援を得て、さらに世界に羽ばたく好機になると良いですね。

10月末のフィレンツェ、旧知のメータさんと共演で、モーツァルトの協奏曲第27番。マエストロ・ポリーニのお元気な登場を願い、すっかり健康を取り戻されるよう、心より祈っています。

2022年 9月19日 21:00
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