時々の雑記帳

音楽のこと、ポリーニのこと、日々の雑感を、
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(7月〜9月)

忘れない、2021の夏
9月に入り急に涼しくなりました。セミの声も途絶え、夕暮れには秋の虫の音がしげくなりました。もう夏は過ぎたのでしょうか・・・。

今年の夏は、全くなんという夏だったでしょう!
コロナ禍のもと医療は逼迫、いえ崩壊が始まり、自然は猛暑と豪雨で襲い掛かり、国民の安心も安全も脅かされている緊急事態宣言下でありながら、オリンピックは挙行され→感染はますます拡大し、なのにパラリンピックも挙行され→学校観戦=学校感染となるかも?
変異株、ワクチン接種の遅れ(そもそも子供たちはワクチン打てない!)・・・楽しい夏休みを過ごせずに2学期が始まった子供たち、その親の世代や若い働く人たちの健康が、本当に心配になります。
2021年 “悪夢のような” 夏。パンデミックが始まって以来(いやそのずっと前から)の日本の政治・社会の有り様の、良くも悪くも総決算みたいなこの夏の出来事を、心に留めて置かなければ、と思います。
(急にもたらされたビッグニュース「菅首相辞任」。「明かりははっきりと見え始めている」ということになるのでしょうか・・・???)

この夏はStay Homeに徹し、テレビも見ず(オリンピックばっかり。それを見て視聴率上げれば「ほら、国民が喜んでるよ〜!」と言われる)、PC、読書、音楽鑑賞(それに昼寝)などで過ごしました。
いつもはポリーニのピアノを中心に聴くことが多いのですが、この夏は交響曲や室内楽もいろいろ聴いて楽しみました。モーツァルトのピアノ4重奏、弦楽5重奏、クラリネット5重奏。ベートーヴェンの大公トリオ、弦楽4重奏。シューベルトやメンデルスゾーンのピアノ3重奏、ブラームスのピアノ3重奏とクラリネット5重奏。ピアノ5重奏はやっぱりポリーニとイタリア4重奏団のもの!・・・多くの音楽の宝物に触れることが出来たのは、Stay Homeの成果(?)と思いましょう。

ポリーニはこの夏の音楽祭シーズンは、8月上旬にラヴェッロ(Ravello)音楽祭に出演。初のリサイタルですが、インタビューに拠れば
『イタリアの特にこの地域を、私はよく知っています。何年もの夏をカプリ島とアマルフィの海岸で過ごしたからです。もちろんラヴェッロにもよく来ましたよ。』とのこと。

この町はワグナーゆかりの土地で、1880年にヴィラ・ルーフォロ(Villa Rufolo)に滞在した折、その美しい風景から『パルジファル』のクリングゾルの庭の音楽の着想を得たそうです。
それにちなんで1953年(ワグナー没後70年)から毎年「ワーグナー音楽祭」が開かれるようになったとのこと。ラヴェッロ音楽祭となってからも彼の音楽は毎年演奏されています。
ワグナーの他にもヴェルディはこのヴィラに、ノルウェーの作曲家グリーグも付近のホテルに滞在しました。音楽祭にはワルター、トスカニーニ、ストコフスキー、ケンプ、バーンスタイン、ペンデレッキ、プレートル、マゼール、アシュケナージ、パッパーノなどが訪れているそうです。

ヴィラ・ルーフォロは、13世紀に裕福な商人Rufoloにより建てられ、14世紀半ばにボッカチオの「デカメロン」の中にも描かれているそうです(2日目第4話、ランドルフォ・ルーフォロ)。
庭からのアマルフィの海岸の眺めが素晴らしく、14世紀にはナポリ王やノルマン王族のために宴会を開いているとか。その後何度か人手を経て、19世紀にイギリス人のリードが購入し、手を入れて、現在のレイアウトになったそうです。

音楽祭は、アマルフィ海岸の素晴らしい眺めを前にした見晴台にステージを併設して、殆どの演奏会はこの野外ステージで行われます。

『場所が音楽演奏に影響を与えるか、ですって? 確かに、ワグナーはこの海に切り立つ庭園に魅了されました。時にはあるパノラマを前にして神秘のしくみ(メカニズム)が跳ね起きるかもしれません。』

ポリーニは戸外ではなく、オスカー・ニーマイヤー音楽堂で演奏しました。(『ええ、同じように素晴らしい場所です』と答えて。)

でも日中はずっとVilla Rufoloの部屋で、夜の演奏会の準備と研究に費やしていたとのこと。

“音楽祭の歴史に残るコンサート”と題した記事がありました。

「聴衆に温かく囲まれたマエストロは、皆がじっと静かに聞き入る音楽堂の中で、崇高な演奏で、親密で情熱的な表情と形式の厳格さと完璧さを溶け合わせた。感情の発露が全てその強さのままに聴衆の元へと届くような演奏だった。

80歳を迎えようとするポリーニの演奏を聴いていると、時の歩みに打ち勝つための方法、妙薬はなにかと尋ねたくなる。
(先の誕生日の際のインタビューで)『音楽ですよ』と彼は即座に答えた。『毎日長時間にわたってピアノを弾く方が、スポーツジムに行くよりも良いのです。頭をはっきりさせ、手をしなやかにします。鍵盤の前では悩みはなくなり、年齢や不愉快なことも忘れます。音楽と共に、音楽の中にある時だけ、時間は止まるのです。時には後ろに進み、少年に戻ることさえありますよ。』

ラヴェッロで、1曲ごとに響き渡った喝采は、あらゆる時代の音楽のレジェンドの一人となった少年へと捧げられたものだった。」

素晴らしい環境で、きっと神秘のメカニズムが跳ね起きたのでしょう、ネ。

音楽堂の設計者オスカー・ニーマイヤー(1907-2012)は、ブラジルの著名なモダニズム建築家で、国連本部ビル(ル・コルビジェらとの共作)をはじめ、新首都ブラジリアの建設に加わり、多くの主要建築物(大統領官邸、国民会議議事堂、外務省、大聖堂など)の設計を行いました。どの建築物にも彼独自の「自由な曲線」が多用されていて美しく、1987年には近代都市では初の世界遺産に登録されています。
建築界の重鎮として2004年には「高松宮殿下記念世界文化賞」を受賞しています。

この音楽堂は2010年に完成した斬新な外観のホールで、ニーマイヤー御歳103歳の作品。昨年はムーティ、バルトリが登場したそうです。今年はマエストロ・ポリーニという世界最高のピアニストを招くことが出来て満足です、と招聘者の弁。

この時の別のインタビュー記事には

(来年の1月5日には80歳となられますが、演奏は年齢と共にどう変わるものですか?)
『去年ベートーヴェンの最後の3つのソナタのアルバムをリリースしました。ずっと以前にこれらのソナタを録音したのですが、私はまだ若輩者でした。多分その頃はこれらの曲に取り組むのは時期尚早だったでしょう。それで現在の私の考えで再び録音する必要を感じたのです。』

(ドイツ・グラモフォンとの新たなプロジェクトはありますか?)
『多分、それなりに早い時期に、ソナタop.101とop.106も発売されるでしょう。ベートーヴェンの作品のさらに2つの基準点です。』

若い頃の録音の素晴らしさ、その輝かしさはいつまでも色褪せないと思われますが、最近の深い思索に満ちた演奏も、待ち望まれるものです。嬉しい知らせですね。

8月中旬にはザルツブルク音楽祭に出演されました。

幾つかの記事がありましたが、有料だったり、長くて読め切れなかったり(泣)・・・。タイトルのみ記します。

Salzburger Nachrichten
“ポリーニとロマン主義:疾風怒濤から心に触れる詩情を生じさせる”

Wiener Zeitung
“ポリーニ、自己の才能の管理者”
 繊細な、ニュアンスに富んだショパン

Die Presse
“はっとさせるショパン”
 シューマンとショパンの作品を組み合わせ、歓呼して迎えられた

来シーズンの活動は、10月中旬スペインから、と思っていましたが、10月11日に新しいリサイタルのあることが判りました。イタリア北東部のポルドノーネという町です。コロナ禍の不自由な社会にあっても、イタリア国内での活動に力を入れていらっしゃるようです。
マエストロ・ポリーニがお元気で活躍されるよう、心から願っています。

2021年 9月4日 18:30
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