冬の陽射しが柔らかく差し込む昼下がりです。木々はすっかり葉を落としてしなやかな枝を伸ばし、銀杏の黄、紅葉の赤が目立ちます。山茶花の赤紫色が緑の葉に鮮やかに、紅い実がたわわに実る木には小鳥が集って鳴き交わしています。晩秋の風景は穏やかに・・・と思いたいところですが、もう師走、冬ですね。いやはや、秋の雑記帳を一文も書かぬまま、師走を、しかも残り少ない日々を迎えるとは・・・。まったく私は、一体何をして暮らしていたのでしょう???(自粛生活デス)
コロナ禍に覆われて過ごした一年でした。日本では秋以降は次第に感染が少なくなり、まるで収束に向かうかのようでしたが、世界ではまだまだ感染が広まっているのに、なぜ日本では急激に鎮まってきたかが判らず、不安でした。ワクチン接種の効果? ウィルス自体が弱体化した? 日本人の行動様式(マスクして密を避けて黙食して)? 日本人の持つファクター・アルファ? いろいろ言われても納得はできませんでした。
そこへオミクロン株の発生で、ウィルスの巧妙な生存戦略(?)が窺われ、感染力の速さには「地球は一つ」と思わされ、ワクチンの効力にも不安が生じ、まだしばらく楽観は出来そうもありません。
歴史的に見るとウィルスとの戦いは3年は掛かると言われていますから、今はまだ道半ばということなのでしょう。科学の進歩でもっと早期に収束できるかも? いや、世界の交流・流通の拡大でもっと複雑化するかも? 天秤はどちらに動くのか、判りません。
いずれにせよ、ワクチンが世界中に等しく行き渡り、特効薬が世界中で誰もが使用できるようにならない限り、コロナが本当に終息することは無いのでしょう。
地球温暖化、世界中での異常気象、パンデミック・・・「世界は一つ」と思わされることばかり、世界中で協力して、人知を結集して、乗り切るしかないことばかりです。
コロナとの戦いが世界を、地球上の人々を、一つにする好機となるよう、期待せずにはいられません。その後にも、人類にとって唯一の地球に、問題は厳然として続くのですから。
ヨーロッパでは、コロナ感染が少し収まった時は、店が開き、イヴェントが再開され、街に活気が戻り、人々が生活を謳歌し始めているようでした。
マエストロの演奏会も、イタリア、スペイン、ドイツ、フランス、またイタリアと、EU内の国境を越えて行われました。
9月下旬はイタリアのパヴィアでリサイタル、久々に「ハンマークラヴィーア」が演奏されました。
10月初旬から中旬にかけて、体調不良ということで、ポルデノーネ(1月へ)、スペインのマドリッド(12月へ)のリサイタルが延期となり、ちょっと心配になりましたが、27日には元気にバルセロナに登場、シェーンベルク、ノーノの作品(おそらくスペインで初めて?)、ショパンのソナタやポロネーズで聴衆を魅了されました。
11月にはドイツのフランクフルトへ。Janさんのメールに拠ると(概略)
〈完売ではなかったが、おそらく長年ポリーニの演奏を聴いてきた聴衆でホールは一杯で、心温まるスタンディング・オヴェーションと「ありがとう!」の声も聞かれた。シューマンの「幻想曲」にはパッションがあり(急ぎ過ぎることは無く)、ポリーニ自身が演奏を楽しんでいるようで、我々も幸せに感じられた。ファブリーニの調整した魅惑的なピアノの音色も、いつもながら本当に美しく、特に「マズルカ」の長いメロディ・ラインは麗しかった。「バラード第4番」も素晴らしく、「スケルツォ1番」のような難曲でのテクニックの確かさは目を見張るようだった。アンコールは「バラード第1番」。〉
パリでの演奏会は、少しお疲れがあったのでしょうか。メールをいただいた方に拠れば
(概略)
〈「アラベスク」は愛奏の曲を自在に演奏するようで美しかった、が、「幻想曲」ではミスタッチやテンポのズレがあり、マエストロ自身もとてもお疲れのようだった(でも聴衆からは大喝采、ブラボーも)。休憩後のショパンは美しい「マズルカ」に始まり、少々ミスタッチなどあっても本当に美しい「ソナタ第2番」だった。葬送行進曲ではホールが水を打ったような静寂に包まれ、終楽章はかなりのスピードでの確実な演奏だった。「子守歌」は繊細ながら感傷性に傾かぬポリーニの演奏、「英雄ポロネーズ」では音の抜けやミスタッチもあったが、安全運転には甘んじることのない全力での演奏で、終わるや否や大喝采。美しい音の真摯な演奏に、若い人々も多かった聴衆からは、満場の拍手喝采、ブラボー! メルシー! スタンディング・オヴェーション、一斉の手拍子が送られ、アンコールは「バラード第1番」。感動とポリーニへの敬意と感謝の思いがホール中を覆っていたように感じられた。〉
12月のマドリッドではプログラム変更でノーノ作品がショパン「舟歌」になりました。辛口の評もあったようですが、聞きに行かれた方からは“Incredibile!”、“Meraviglioso!”の言葉がfacebookなどに見られました。
今年最後の演奏会はシチリアのメッシーナにて。どうやら1972年以来の演奏のようです。
ベートーヴェンの「ソナタ28番・29番」の2曲は、このところの、そしてこれからも予定されているプログラムの曲で、現在のマエストロが真摯に向き合っている大切な曲なのでしょう。スタンディング・オヴェーションに終わる良い演奏会だったようです。アンコールは「バガテルop.126-3」。“真の生ける伝説へ”と結ばれる批評に添えられた動画で、聞く(見る)ことが出来ます。
http://www.messinaora.it/notizia/2021/12/16/maurizio-pollini-beethoven-al-vittorio-emanuele-la-leggenda-diventa-realta/153455
「ハンマークラヴィーア」という難曲の演奏で、さすがにお疲れの滲む背中、歩く姿ですが、この大曲の後よくアンコールに奏される小曲は、癒し、安らぎ、祈りのような優しい曲。
今年最後に、この美しい曲をポリーニの手から聴くことが出来て、幸せな思いがしました。
ヨーロッパでは、新変異株オミクロンの登場で、また感染が再拡大し、市民の活動は縮小、後退、閉鎖、そしてロックダウンへと進んでいるようです。いずれ日本にもその波が押し寄せるのでしょうか。まだまだ先の見通せない不安な社会ですが、コロナとの戦いは少しずつ前進していると信じて、自分の出来ること(自粛生活?)をして、乗り切りたいと思います。
今年もお世話になりました。皆様もどうぞご自愛のうえ、良いお年を迎えられますよう心から願っております。