時々の雑記帳

音楽のこと、ポリーニのこと、日々の雑感を、
時々(気まぐれに)、書き入れます。

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このほかの日記帳はこちらを、すぐ前のものは「夏」7〜9月を、後のものは「冬」1〜3月ご覧ください。

(10月〜12月)

枯葉を踏んで
この秋は暖かい日が多く、東京では木枯し1号も吹かぬまま12月を迎えました。木々の色づきは遅く、鮮やかさも少なく、中には褐色の枯葉ばかりが目立つ木もありました。今夏の「災害級の猛暑」で葉が枯れてしまったのでしょうか。
それでも我が家付近の街路樹は次第に紅葉や黄葉に染まって、目を楽しませ、日々秋の深まりを感じさせてくれました。先日は木枯らしならぬ南からの強風が吹き荒れて、折角の紅葉を散らしてしまったのですが、葉を落とした枝々から見える空は、もうスッキリと冬の青空。乾燥して冷たい風は、肌を突き刺すよう。暖冬との予想、期待は、外れてしまったみたいです。
北の地方からはすでに大雪の報道や雪害の心配も報じられています。関東地方も山の方では例年より早く積雪の知らせ。日ごとに最低気温を更新しながら、本格的な冬が足早に近づいて来るようです。

今年もいろいろなことがありました。日本だけでなく世界的に、自然の大災害や、社会的な諸問題、政治の荒廃も・・・混沌と混迷を深めるような出来事が一杯あって、不安や心痛や憤りを覚えることも多い年でした。そんな2018年も12月半ばとなり、日本の“平成最後の冬”も残り少なくなりました。

ポリーニ・ファンにとっては、“2018年”はポリーニ20回目の来日公演が実現した年として、記念すべき年、心に深く残る年となりますね。
来日公演が終わってから、私はしばらくボ〜〜っと過ごし、心のうちにピアノの響きや音楽、マエストロのお顔や舞台上のお姿、ホールの情景などを思い起こしていました。
それからまたCDを聴き直して(ソナタ3番やノクターン、それに聴けなかったハンマークラヴィーアも)、その演奏の素晴らしさに、改めて感じ入りました。が、やはりライブで聴いた“現在のポリーニ”の音楽の味わいは、格別だった・・・との思いも湧いてきます。

新聞の評を探し、音楽雑誌の発売を待って、記事を読みました。
新聞では、日本経済新聞(10月30日)に7日のリサイタルの評〈江藤光紀氏〉。(お知らせありがとうございました)
また読売新聞(10月18日)には12日のポリーニ・プロジェクト1の評〈松平あかね氏〉が載っていました。
音楽雑誌では、音楽の友12月号に特別記事として、見開きで7日・18日の評〈道下京子氏〉。
音楽現代12月号には18日のリサイタル評〈高塚昌彦氏〉。(こちらもお知らせありがとうございました)
Mostly Classicの2019年1月号には10月18日のリサイタル評〈萩谷由喜子氏〉が載っていました。
それぞれ読むうちに、(そうそう、と思ったり、そうかな?と思ったりもしましたが)その日のマエストロの演奏やホールの情景を思い出し、懐かしい思いで一杯になりました。
いずれこの年の記録として、まとめたいと思っています。その折にはご協力をお願いいたします。また、他の新聞・雑誌でリサイタル評をご覧になった方がいらっしゃいましたら、お教え頂けると幸いです。m(_ _)m

さて、イタリアに帰国されたマエストロですが、11月のパリ、12月のジェノヴァでの公演はキャンセルとなりました。
遠路はるばるの日本ツアーで、お疲れが出たのでしょうか・・・。腕の不調もまだ快復していないのでは・・・と心配になります。もともと体調が不安なところを、無理を押して来日して下さったようで、日本のファンとしては恐縮し、深く感謝し、奇跡のような演奏に触れ得たことに、感動するばかりです。
ゆっくり休養して新しい年を迎え、77歳、喜寿!(*^^*)vの誕生日を祝い、また元気に活動を再開されますように、お祈りしています。

今回の更新は、2019年のスケジュール表を載せ、新譜、日本での演奏会の記録などを書き加えました。

さて、一つお知らせがあります。
Yahoo!ジオシティーズが来年3月にサービス終了となり、このホームページも他へ移行することとなりました。現在準備中です(が、試行錯誤の状態です)。

新しいUrl.は改めてお知らせいたします。また、移転前のページに「〇秒後に転送します」との表示が出て、自動で新しいページに移行できると思います。ただ、個別のページ(スケジュール表など)から直にその同一ページには移動できないかもしれないので、トップページから入っていただければ、と思います。
ブックマークをトップページ(http://www.geocities.co.jp/MusicHall/7628/、或いは、http://www.geocities.jp/lovepollini/)に設定しておいていただけると、安心かと存じます。
ご不便をお掛けしますが、どうぞよろしくお願いいたします。

今年も一年、このサイトを訪れていただき、貴重なご意見、新しい情報などをお寄せいただき、本当にありがとうございました。皆様とご一緒に、マエストロのこと、新譜や演奏会の感想などを語り合えたのは、楽しく、幸せなことでした。来年も、マエストロを囲んで(?)ご一緒に音楽を楽しんでいけたらと、望んでおります。

寒さも忙しさも増す折ですが、お元気で、どうぞ良いお年をお迎えください。

2018年12月14日 23:30

花火のあと
最後のリサイタルを聴き終えて、友人達と感想など話しあい、帰路はかなり遅くに夜道を辿りました。満月に向かう月が明るく、東の空にはキラキラと瞬く星が昇ってきていました。ああ、もう冬の星座が見える時季になったのね、季節は巡る・・・と思わずホロリ。

今年は1月にポリーニの来日予定が判り、期待に胸膨らませたものの、その後体調のためにキャンセルが伝えられたり、また他方では無事に演奏会が行われたと知って安堵したり。一喜一憂しながら過ごしました。秋口の公演にはドクター・ストップが報じられ、直前の中国公演は「飛行機の旅を止められて」中止に。それでは、さらに遠い日本には・・・と不安は募るばかりでした。
そのような日々から、今回の20回目の来日リサイタルが無事に行われたことは、本当に“有り難い”こと。長旅をいとわず来日されたマエストロに、また周囲の方々の支えに、招聘元の方々の尽力に、感謝の気持ちでいっぱいです。

翌日は温かい秋晴れ。青い空を遠ざかっていく飛行機を見ては、「良い旅を、マエストロ!」と心に思うのでした(我が家から見えるのは、多分羽田から飛び立った飛行機、なのに)。無事にミラノに帰り、ご自宅でゆ〜っくりと寛いで、長い旅、長くなってしまったツアーの疲れを、癒していただきたいですね。


11日の第2回目のリサイタルが21日へ延期となり、次の18日のプログラムは変更と知った時は、ショックでした。と同時に、最初の演奏会がどんなに渾身の力をもって行われたことか、と思いました。超絶的なテクニックを駆使し、熱いパワフルな演奏を披露した後の、達成感ある笑顔とともに、疲労感のにじんだマエストロの姿を、改めて思い出しました。

さて、18日のプログラムはベートーヴェン「ハンマークラヴィーア」から11日(→21日)と同じショパンとドビュッシーのプログラムに変更となっていましたが、当日のリハーサルの後に、ポリーニ自身の希望で、急遽再変更となりました。ソナタ第3番の代わりにノクターン、マズルカ、子守歌へ。

前回ソナタ第3番を聴いて、衝撃ともいえる大きな感動に打たれた私は、この曲をリサイタル前半に聴いたら「私、どうなっちゃうんだろう?」みたいな感じがしていたので、残念(本当に!)な気持ちの一方、フッと納得する感じもありました。でも、腕の疲労は十分に快復されたのか、その心配は残ります。

舞台に登場する歩調は、前回よりずっとしっかりした足取りでした。時間を置くことで、体調も快復してきたのなら、嬉しいことです。
2つのノクターンop.27は、やや緊張感をもって弾き始められましたが、2曲目はアンコールでもよく弾かれるポリーニの愛奏曲、美しさを味合わせてくれました。なぜか、懐かしい気持ちが湧いてきます。

3つのマズルカop.56は1986年来日で演奏されたそうですが、録音は無く、私には初めて聴く曲。じっくり耳をそばだてて、マズルカのリズムに就いて行く「舞曲」でした。素朴な村人の踊りを思わせながら、光と影が織りなされる、ショパンの郷愁が込められた曲。後期作品を手掛けてきたポリーニの“今”も、感じられる演奏でした。

2つのノクターンop.55。この曲は第1夜にも聴いたのに、美しい演奏だったはずなのに、あまり記憶にない(^^;)のは、その後のソナタで吹っ飛んでしまったのでしょうか・・・。今回はしっかりと聴いて、緻密な深みある美しさに、大きく飛翔するメロディから静かに深まる曲想の細やかさに、やっぱり素敵な曲だったのね! と感動を新たにしました。

「子守歌」は前回のアンコールで、“思いがけず”聴いた時の幸福感が甦り、しみじみと聴き入りました。

満場の拍手でマエストロを称えて、優しい笑顔で応えていただいて、前半は終了。
休憩時にお会いしたファンの方々も、美しい演奏を堪能され、皆さん感動の面持ちでした。本当にポリーニの弾くショパンは、どの曲も十分に吟味され、その魅力を余すことなく表してくれます。愛情が込められ、深い共感をもって奏される曲は、心に染み入るよう。このプログラムが聴けて、良かった! と思いました。この曲たちを選んだポリーニの、「約束」の通りに演奏会を行うことへの強い意思、思いの深さを、感じました。

後半はドビュッシー「前奏曲集第1巻」。ある方のご指摘で、この曲集全曲が日本では初めてプログラムに入ることを知りました。1976年にこの中の6曲(帆、野を渡る風、音と香りは夕暮れの大気に漂う、雪の上の足跡、西風の見たもの、沈める寺)が演奏されたのみなのです(アンコールでは何度か聴きましたが)。CDがリリースされて久しいので、なんだか聴き馴染んでいるような気がしていたのですが・・・。初のライブに、期待は高まります。

そして“!!!!!”というドビュッシーでした(*^^*)。ポリーニならではの澄み切った硬質な音、怜悧で緻密な演奏。なのに、柔らかく温もりのある響き、細やかな心情のこもった歌。
ドビュッシー独自の和音を美しく響かせ、独特の旋律をしなやかに奏でて、これぞドビュッシー!なのに、こんなドビュッシー、あり?とも思わされるような・・・“ポリーニのドビュッシー”でした。

1曲1曲が自由に発想され、独自の世界を形作る、その描き方の絶妙なこと!
静寂のなかに舞う「デルフィの舞姫たち」の幽玄な音色、「音と香りは夕べの大気に漂う」の芳しい詩情、「西風の見たもの」の凄まじいほどの冴え、「亜麻色の髪の乙女」の愛情に満ちた歌、「沈める寺」の重厚な存在感。恰もホールが“寺”となり、その中に居るように感じられるほど、圧倒的な響きに幻惑されました。最後の「ミンストレル」の諧謔性は、ポリーニらしい真面目(?)なユーモアを湛えて演奏され、全巻を終えました。

ホール中の拍手と喝采。アンコールは「花火」。前奏曲集第2巻の最後を飾る大曲を、瀟洒に、緻密に、華麗に、ダイナミックに、聴かせてくれました。


21日も同じプログラムとなりました(ノクターンop.55とマズルカop.56の順が入れ替わりました)。ソナタ第3番を、もう一度聴きたかった・・・という気持ちもありましたが、ポリーニの演奏が聴けるなら、どの曲でもOK!でもあります。
中二日おいての登場で、また少しお疲れもあったようですが、親しみ深いポリーニ愛奏の曲たちを、美しく真摯な、心からの演奏で聴かせてくれたリサイタルでした。

Bravo! Grazie! 本当に、ありがとうございました、マエストロ!


今回はドイツからJさん、アメリカからM子さんがはるばる訪日され、Iさん、H子さんもご一緒に、マエストロの演奏を楽しむことが出来ました。感想を話したり、外国でのマエストロの様子を伺ったり、楽しい時を過ごさせていただきました。ありがとう!
開始前や休憩時間に、ホールでお声をかけて下さった方々にも、お礼を申し上げます。皆様と期待の思いを交わし、感動を分かち合って、マエストロの演奏に臨むことは、とても幸せなことでした。

ありがとうございました!!! また、お会いしましょうね、ポリーニのピアノを再び聴く日を、望みつつ!!

新たなスケジュールのお知らせがありました。(Grazie, Marco!)
2019年5月7日、ミラノにて、シューマンのピアノ協奏曲、ズビン・メータとの共演です。

2018年10月25日 23:30

夢のような・・・
秋空が広がり、涼しい風が吹き抜ける快い季節です。金木犀が香り、やっと落着いた秋の気配が漂ってきました。

1日に無事来日が報じられたマエストロ。本当にホッとしましたが、その後の台風やら風雨、寒暖差に、体調を整えられるのも大変かしら・・・と案じられました。
リサイタル初日の7日は晴天、でも32度超の猛暑! こちらも汗を拭き拭き、ホールに馳せ参じました。

6時半、オルゴールの音に誘われてホール前に行くと、カラヤン広場は既に人でいっぱい。開場後は大勢の人が吸い込まれるようにエントランスに入っていきます。これまでは大抵開場の後に着いて、聴衆が三々五々ホールに入っていく光景を見ていましたが、いつもこんなだったのかしら、それとも・・・? なにか、熱っぽい光景を見たような気がしましたが、これもマエストロを待ち望んでいた多くのファンの、熱い気持ちの現れだったのでしょうか。

黒く光るピアノの前には、スマホやカメラで写している人がいっぱい。“Fabbrini”の金文字を確認すると、フッと安堵感が湧いてきます。

7時、ほぼ満席のホールにシーーーンと張り詰めた静寂が流れ、10分も過ぎたころ、マエストロの登場。ゆっくりと、慎重に歩を運び、ピアノの前に。少し痩せられた?ようだけど、にこやかな笑顔が嬉しい。
お久しぶりです、マエストロ! ホール中の大拍手がそう言っているよう。

前半はシューマンの作品3曲。「アラベスク」最初の音はちょっとくすんだ音色と控えめな音量、オヤ?と思わされる箇所もありましたが、丁寧に音を紡いで行く中に、次第に調子が乗ってくるのが感じられます。すぐ続いて「アレグロ」は音の輝きも増して、華やかに、若きシューマンの情熱がほとばしる曲を聴かせてくれました。
一旦舞台裏へ退き、でもすぐ再登場のマエストロ。もう少し休まれても・・・と思うけれど、集中力の高まりが先へと進めるのでしょうか。
「ソナタ第3番」は力強くダイナミックに奏された第1楽章、クララの主題による変奏曲は優しく美しく、細やかに愛情が込められ、フィナーレは情熱が迸るパワフルな演奏となりました。
さすがにお疲れの様子で舞台を退かれましたが、客席ではマエストロのお元気なことが判った嬉しさと安堵感。満場の拍手にも、そんな聴衆の想いが込められていたように思います。

休憩時にお会いした方々も、久しぶりの来日の実現を喜び、マエストロのお元気な姿に安心し、美しい音楽を楽しまれているようで、皆さまと言葉を交わすうちに、後半への期待もいや増してきました。

休憩後はショパンの作品3曲。さっきよりやや早めに、しっかりした足取りで登場。すぐにノクターンが始まると、純度の高い音、重厚な音の深みも増して、響きが豊かになったように感じられました。2曲目も本当に美しい演奏で、しみじみと心に沁み入る曲に思わず目を閉じると、音の広がりと煌めきが増し、精緻に紡がれる曲想がさらによく感じられます。なんて美しい音、詩情に満ちた演奏! (耳だけに集中しているからでしょうか。でも、せっかくマエストロの横顔が見える席、やはり目も開けて聴きました*^^*)

ソナタ第3番。ショパンの最高傑作とも思えるこの曲をライブで聴くのは、長年の夢、憧れでした。
日本で今回初めて披露される曲ですが、世界の舞台でもあまり取り上げられていないようです(21世紀の記録を見たのみですが)。2010年に北米ツァーで2回演奏、その後は2017年までプログラムに現れてきません。そう、「ショパン:後期作品集」が録音された頃から、ほぼ全てのショパン・プロに組み入れられてくるのです。

聴きながら思ったのは、今のポリーニに真に相応しい曲、ということでした。後期作品を深く探求し続けてきた彼だからこそ表現し得る、この難曲の大きさと深さ、豊かな歌と詩情溢れる美しさ。マエストロが真摯に探求してきたショパン晩年の作品の、最も豊かな果実。
全身全霊で弾ききった、と思われるマエストロに、ホール中から大喝采と大拍手。いくら称えても称えきれない、という想いでした。

アンコールは「スケルツォ第3番」、本当に美しい演奏でした。特に高音の煌めき!
ホールに明りが灯り、お疲れなのが良くわかるマエストロの姿。早く楽屋で寛いでいただきたいと思いながら、でも拍手を贈らずにはいられない聴衆の感謝と感動。
それに応えて、でしょうか、なんと、再びピアノの前に座り2曲目のアンコールを弾いてくださいました。「子守歌」の優しく美しい演奏、目を閉じて聴きながら、もしこのまま眠れたら、きっと天上に遊ぶような、幸せな夢が見られるでしょう・・・。

ホール中のファンが、来日と演奏への感謝の想いを拍手に託し、幸福感を共有しているように感じられました。

力演・熱演のマエストロ。本当にお疲れ様でした!

でもそれが、11日の演奏会の延期に、また18日のプログラム変更にも繋がってしまったようで、本当に残念です。

マエストロ、どうぞごゆっくり休養なさってください。なによりも大切な御腕の疲れが癒え、1日も早く快復されますように!

2018年10月12日 13:00

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