時々の雑記帳

音楽のこと、ポリーニのこと、日々の雑感を、
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このほかの日記帳はこちらを、すぐ前のものは「秋」10〜12月を、後のものは「春」4〜6月をご覧ください。

(1月〜3月)

マグノリアの季節
白木蓮が咲き始めると、いよいよ春!と心が弾みます。優しい色合いの乳白色の花が、空に向かって“春が来たよ〜”と歌っているよう。大きな花の伸びやかさにつられて、私も縮こまっていた身体を伸ばして、空を仰ぎたくなります。白木蓮(マグノリア)の花言葉は、『気高さ』『荘厳』『崇高』『慈悲』『自然への愛』など。(そういえば、私の母校の学園祭は「マグノリア祭」と言いました。秋に行われるのに、なぜ春の花の名がついていたのか不思議でしたが、花言葉のような生徒像が期待されていたのかも・・・?)
  早くも3月の半ば。進学や卒業、転勤や引越しと、別れと旅立ちの季節です。寒暖が入り混じる気候のように、明るく弾んだ気持ちに、ちょっぴり不安の入り混じる時期でもあります。次に来る新たな出会いの季節を前に、身体も心も、バランスをとって、明るい春を迎えたいですね。

マエストロ・ポリーニは2月にケルンでリサイタルを行い、素晴らしいオール・ショパン・プロで、ソナタ第3番は“great”な演奏だったとのメールがあったことを、掲示板でお知らせしました。その後すぐに、フランクフルトとベルリンのプログラムが同じオール・ショパン・プロに変更になったことを、あるファンの方からお知らせ頂きました(ありがとうございました!)。ショパンの後期作品に集中的に取り組んできたマエストロ、久しぶりに演奏したソナタ第3番に、新たな魅力を見出し、さらなる興味を掻き立てられたのでしょうか。

その直後のロンドンでも素晴らしい演奏会で、特に後半は心が震えるほど美しいものだったと、聴かれた方からメールをいただきました(ありがとうございました!)。前半はショパンの作品、後半にはドビュッシー「前奏曲集第2巻」が演奏され、アンコールは「沈める寺」「スケルツォ第3番」「バラード第1番」の3曲。ご機嫌良く喝采に応えられるマエストロが、目に浮かぶようです。
このプログラムはパリ、アメリカ・ツァー、ウィーンでも披露されるものです。ドビュッシーの「前奏曲集第2巻」は、きっとポリーニにとって、「掌中の珠」のような曲達なのでしょう。いつの日か(近いうちに)究極の演奏がレコーディングされることを、切に願っています。

3月初旬はミラノで「皇帝」の演奏が行われました。前日には、ミラノ近郊の恵まれない地域の人々(若者)への支援を表明し、また年長の愛好者が音楽に接するのを確実にするために、リハーサルが公開され、入場料はAmici di Edoardo Onlus"という貧困問題に取り組む団体に寄付されました。

ミラノ出身の三者、ポリーニ、シャイーそしてスカラ・フィルによる演奏会は素晴らしい感銘を残したようです。シャイーは「コンセルトへボウ、ゲヴァントハウスそしてスカラ・フィル。ポリーニとは“私の”オーケストラでこの曲の共演をしています。ベートーヴェンにおいて厳正さと自由の間のバランスを見出すのに役立つ要素について、私達は一致しています。」と語っています。

ある評をサッと読んでみると・・・

75歳のポリーニは“気楽さ”を拒否し、いつものように明晰な機敏さで曲に向き合い、ポリーニ最高のヴィルトゥオジティで、断固たる、緊張した、美辞麗句でない演奏を行い(無気力ではなく感傷的でもないアダージョは、このために一層魅力的だった)、典型的に「ポリーニらしい」能力で、彼のベートーヴェンの内部に生じてくる音楽を感じさせたのだった。伴奏するシャイーもとても素晴らしく、オーケストラもソロと一体となって、明確で緊密な、堅固な「皇帝」となった。
筆者は左手から舞台を見渡し、指揮台からピアノへの目配りの様子を面白く見ていたが、二人の「同じようにに感じる」様は明らかだった。聴衆もそれを理解し、彼らに称賛を贈った。ポリーニもそれを感じていたと思う。喝采を受けに登場する度に、コンサートマスターと握手を交わし、オーケストラに起立を促すことを忘れなかった。とても素晴らしい夕べだった。

演奏会に先立ってインタビューも行われました。

(ミラノについて)
ミラノ周辺の地域と中心地の融合が課題です。私の父も建築家でしたが、50年代にその試みをしていました。周辺部の地域に、人々を文化的な生活に巻き込んで、新たな機会を提供することが必要です。
ミラノは随分良くなり、活気が戻り、興味深い、新しい考え方が開かれてきました。今の大きな問題は公害です。このような毒を呼吸しては、前に進むことが出来ません。

(「皇帝」は、生涯にわたって演奏する、貴方のキャリアの鍵となる曲の一つですね)
「皇帝」は何度も演奏しましたが、その度に新たになります。より深くなるのです。ちょうど真実の友に出会うように。

シャイーとは既にライプツィッヒでこの曲を演奏しています。この傑作をより理解するのに、とても良い出会いでした。その前には他の大指揮者と演奏しています。ムーティやベーム、バレンボイムやアバドと。

(2013年にアバドと、ボローニャで演奏することになっていましたね)
アバドとは一番多く共演しました。この協奏曲は特別でした。私達は異なるテンポで演奏したかったのです。ずっと取り組んできました。でも彼は重い病気でした。最後まで望んでいたのですが・・・。ハイティンクが彼に代わりました。

(最近のスカラには若いピアニストが登場しています。33歳のタヴェルナ、24歳のラーナ、まだ15歳のマロフェーフ。彼らをどう思いますか)
どの人にも、関心を持っています。新しい世代は注目すべきテクニックの能力を持っています。ピアノは若い人に適していて、他の楽器より近づきやすい楽器です。例えばヴァイオリンに習熟するには、もっと時間が必要でしょう。その為しばしばピアニストは早熟です。私がスカラにデビューしたのは16歳、アルゲリッチに出会ったのは彼女が15歳の時でした。近頃彼女の演奏を聴きましたが、嬉しかったし、感嘆しました。

(ラン・ランやユジャ・ワンの服装は演奏会場よりディスコに向いているようですが)
ええ、古いものにも良さはあるのですがね。燕尾服は確かに古臭いかもしれません。でも聴衆と音楽とに対して敬意を表すのに、品位ある服装は必要でしょう。

(75歳を過ぎられましたが、何歳ごろまで演奏を続けようと思いますか)
さまざまな力が私にそれを許すまで。ピアニストの人生は厳しいですが、音楽には特別なエネルギーを与える効用があります。音楽は長寿の助けになります。不老長寿の妙薬なのですよ。

いつまでもお元気で、素晴らしい演奏を聴かせてください、マエストロ!!

2017年 3月16日 14:30

梅の香に誘われて
暦の上では春。節分・立春は幸いにも暖かい日となりました。風はまだまだ冷たいけれど、陽射しは力強さをまし、早足で歩けば汗ばむほど。梅が咲きはじめ、白や赤の可憐な花が目を楽しませてくれます。春はもうすぐ・・・。
でも高気圧と低気圧が次々と通過し、寒暖の交替が繰り返されるのが二月。三寒四温という言葉が浮かびますが、元々は中国東北部や朝鮮半島北部の厳冬の気候を表す言葉だそうです。シベリア高気圧の影響で7日周期の寒暖(と言っても寒さが緩む程度)の交替を言うのだとか。日本でも俳句の冬の季語で、晩冬〜立春の句に使われるようです。でも言葉は生き物、今は少しずつ春に向かう気候として二月から三月の、寒暖(春めいた暖かさ)の入れ替わる時期に適っているように思うのですが。
ともあれ寒暖の差のある時期は、体調管理に気を付けなくてはなりませんね。

新譜「ショパン後期作品集」をお聴きになりましたか。心洗われる、そして心を震わされる、素晴らしい演奏ですね。
美しい音色の輝きと透明感、軽やかなタッチと重厚な打鍵、華やかな中に潜む孤独感と哀愁・・・。作曲家ショパンの頂点を明らかにし、その晩年の心に寄り添うかのような、ポリーニの真情が溢れる演奏と思いました。
舟歌、幻想ポロネーズは聴き応え十分、初の録音であるワルツ、マズルカもとても魅力的です。

「7分間の喝采、ブラーヴォの叫び、皆立ち上がってマエストロ・ポリーニのスカラへの帰還、75歳の誕生日を祝った。ミラノ生まれの大ピアニストはこの人生の節目をピエルマリーニ(スカラ座の別称、建築家の名から)で祝うことを望んだ。」
「ミラノとスカラ座は、このように彼の成功に相応しい称賛を贈るとともに、心からの感謝の念も持っている。この100年のピアノ演奏史において避けて通れぬ基準点である巨匠、またイタリアの音楽と文化において卓越した人々の一人として。」
ANSA通信の記事です。それに拠れば、
「芸術家ポリーニのキャリアは密接にスカラ座と結びついている。1958年に16歳でデビュー、ゲディーニの“ピアノと弦楽器のための幻想曲”をトーマス・シッパースの指揮で初演した。2年後、ショパン・コンクール優勝の直後に再登場し、チェリビダッケの指揮でショパンのピアノ協奏曲第1番を演奏した。それ以来コンスタントに登場し、リサイタル、協奏曲ではアバド、ムーティ、バレンボイム、ブーレーズ、シャイーと共演し、その数は141回に上る。ロマン派から現代音楽までの広いレパートリーを披露し、1995年には全7回のベートーヴェン・ソナタ・チクルスを行った。また2013/2014シーズンには、全世界の大ホールで催されたProgetto Pollini"を、最後にミラノで開催した。」

141回の演奏会! ミラノはポリーニにとって、やはり特別な街なのですね。そしてミラノっ子にとっても、特別な人、敬愛する、誇り得るマエストロなのでしょう。素晴らしい演奏会だったようで、本当に良かったです!

パルマの演奏会は23年ぶり、とのこと。プログラムは最初にシェーンベルク作品、次にベートーヴェン「悲愴」となりました。前日の告知記事のみで、詳細は判りません。ショパンのソナタ第3番はどんな演奏だったのでしょう、アンコールは・・・と、気になります。

2月はケルン、ロンドンの演奏会。ケルンではオール・ショパン・プロで、ソナタ第3番も披露されます。ロンドンのプログラムは、今シーズンよく演奏しているバラードを中心にしたショパン・プロにドビュッシーを配したもの。自在に曲を組み合わせて、素敵なプログラムを創り上げるマエストロですね。

今回の更新は、ショパンの新譜と、昨年発売された全集をディスコグラフィーに入れました。これまでディスコグラフィー6(現代作品、DVDなど)にオムニバスや60歳・70歳記念のCD集も記していましたが、今回75歳記念全集の膨大(?)なデータを記すにあたって、ディスコグラフィー7として別ページを作りました。
新たに判ったスケジュール、来年のロンドンとニューヨーク、シカゴの日程をスケジュール表に載せました。
また、3月〜4月のリサイタルのプログラムを付け加えました。

2017年 2月6日 12:10

穏やかな年に
初春のお慶びを申し上げます。本年もよろしくお願い申し上げます。

明るいお正月をお迎えのことと存じます。三が日は穏やかな晴天、暖かい春のような陽差しでした。
今年は地域の氏神様へ家族で初詣に行きました。こじんまりとした古い神社ですが、大木に囲まれて厳かさもあり、静かに祈りを捧げ・・・たかったのですが、小さな孫達はジッとしていない! で、アタフタと拝んで参りました。皆が健康に、元気に過ごせて、明るい良い年になりますように。世界に平和が、世界中の人に平穏な日々が、訪れますように。

今年はどんな1年になるのでしょう・・・。
昨年は熊本での地震や火山の噴火など、災害の多い日本でした。世界ではイギリスのユーロ離脱からアメリカ大統領選挙まで“マサカ!?”が多かった年、そして多くの国・都市でテロが頻発し、不安と不信と不穏な空気に覆われた一年でした。
新年を迎えてもその状況は変わらず(いや一層激しくなりそう)、“マサカ!?”が、いよいよ現実になっていきます。時代は、もう、変わり始めているのですね、それも急激に、傾斜を強めるかのように。

さて、今日は1月5日。マエストロは良き新年を、幸せなお誕生日をお迎えのことと思います。
西の空、イタリアに向けて、お祝いの声を送りましょう、心を込めて!

Buon Compleanno!
Tanti Auguri!

マエストロ・ポリーニ、お誕生日おめでとうございます!

75歳という記念すべき年、お健やかに活躍されますように!
幸多き一年となりますよう、心からお祈りいたします。

マエストロの1年は、イタリアでの演奏会から始まります。9日にボローニャ、16日にミラノ、28日にパルマと、1月はお膝元でのリサイタル。プログラムも発表になりましたが、ボローニャ、ミラノではベートーヴェンのソナタ3曲にシェーンベルクを組み合わせたもの、パルマではその組み合わせ前半とショパンを後半に入れたものでした。

ボローニャでは"Lezioni di Piano"というテーマで、1月にマエストロ・ポリーニ、2月にファジル・サイ(ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン)、3月にはブレンデル(の解説?)Denes Varjon(の演奏?)でリストが取り上げられます。Il mito, il prodigio, la leggenda″(神話、鬼才、伝説)の3つの特別なコンサート、と書かれていますが、マエストロはIl mito″なのかしら(その3つとも、にも思えますが)。
プログラムはベートーヴェンのソナタ「悲愴」にシェーンベルクのピアノ曲op.11とop.19、後半にまたベートーヴェンのソナタ24番と「熱情」。哲学者・音楽評論家のアドルノは、最も重要な作曲家としてベートーヴェンとシェーンベルクを挙げているそうです。その時代の社会、文化を表現し、また新たな革新をなした者として評価に値すると。
昨年1月5日(!)のブーレーズの逝去から、1年を通していつもリサイタルの初めにシェーンベルクのピアノ小品op.19を捧げてきたポリーニでした。敬愛する師であり盟友であった現代音楽の巨匠、現代の音楽界の道標ともいうべきブーレーズを悼みつつ、その志を継いで、これからも音楽の進むべき道を探り続けようという、静かな強い思いがあったのではないでしょうか。
いつも何か新たな視点を持って、音楽を呈示するポリーニですが、今年も新たに光りを当てられた作品を、心に深く刻まれる音楽を、聴かせてくれることでしょう。

パルマでは「悲愴」とシェーンベルクからなる前半に、後半はショパンの作品が続きます。2つのノクターンop.27とソナタ第3番! 夏のザルツブルク音楽祭のプログラムにソナタ第3番が入っているのを知った時は、嬉しい驚きで目を見張りました。リサイタルでこの曲を取り上げるのは、何年ぶりになるのでしょう。聴きたい!聴いてみたい! と心から思いました。
ショパンの後期作品集を録音したポリーニ、作品58のソナタにも、また新たな視点から、より深い理解をもって臨むのでしょう。75歳を迎えて、なお前を向いて進む意欲的な姿は、変わることのないマエストロですね。

ポリーニもきっと嬉しく思うであろうニュースを一つ。
故アバドが創設したオーケストラ・モーツァルトが、本拠地ボローニャにて1月6日に活動を再開します。3年ぶりの演奏会のプログラムはB.ハイティンクの指揮でベートーヴェンのエグモント序曲、イザベル・ファウストのヴァイオリンでベートーヴェンの協奏曲、シューマンの交響曲「ライン」。「エグモント」はこのオケがアバドと最初に演奏した曲、「ライン」はアバドが死の直前まで研究していた曲だそうです。その後1月8日にはルガーノにて再演されますが、この時はオケのソリスト達の演奏も行われます。
中堅〜ベテランの奏者が要のポストに就き、若い音楽家達と共に音楽を創り上げる若いオーケストラを、87歳の巨匠が再び表舞台に連れ出します。アバドの遺志を継いで、ここにも前向きで意気軒昂な、誠実なマエストロがいます。
ポリーニも2013〜2014年にボローニャ、ウィーン、マスカットでこのオーケストラと共演し、活動休止後も支援を表明していました。9日にボローニャでリサイタルを開くポリーニ、もしかしたら、聴きに行くかもしれませんね。

でも、マエストロ・ポリーニは忙しい・・・。ミラノでは16日のリサイタルに先立って、13日の夕方に講演会を開くようです。音楽を学ぶ学生達を前に、音楽学者のフランコ・プルチーニ氏と語り合う会。若い人たちに音楽の未来を託そうと、熱い想いが語られるのでしょうか。

ヨーロッパの主要都市で、5月はアメリカで、演奏活動を続けるマエストロ。世界の平和を祈るのは勿論ですが、とにかく安全であることを、安心して活動ができることを、心から願っています。

2017年 1月5日 12:40

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