時々の雑記帳

音楽のこと、ポリーニのこと、日々の雑感を、
時々(気まぐれに)、書き入れます。

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このほかの日記帳はこちらを、すぐ前のものは「秋」10〜12月を、後のものは「春」4〜6月をご覧ください。

(1月〜3月)

日脚伸ぶ
白木蓮が咲いている! 北風に身を縮めて歩いていたけれど、ふと目をやると、乳白色の大きな花が空に向かって開いています。まるで枝々が競い合うように春の到来に乾杯!しているよう。空気は冷たいけれど、春はもう近づいているよ、と告げてくれました。
それにしても、寒暖が目まぐるしく変わる弥生です。急に五月の陽気になった日があるかと思うと、冷たい雨(処により雪)が降って、またまた冬が戻ったり。春の訪れは「一雨ごとに暖かくなる」と思っていましたが、そんな日本の四季の常識は変わってしまったのでしょうか。

10日は常総市の大洪水から半年が経つ日、11日は東日本大震災から5年が過ぎた日。半年前の被害は未だ生々しく傷跡を残し、5年前の被害は歳月にさらされ、荒れ果てたまま置き去りにされているかのようです。「風化」という言葉が過ぎります。そこに暮らす人達、そこに暮らしていた人達には、1日1日が、いえ1時間が、毎分が、重い、貴重な、現実の時間なのに。自然の脅威は計り知れない、だからこそ忘れない、謙虚に向き合う、そして人智をより高めて誠実に備えることが必要なのでしょう。勿論、多くの場所で、多くの人達が復興へ向けて不屈の努力を重ね、実を結びつつあることも知りました。その力強さ、明るさ、優しさには心から敬意を抱きます。都会にいる私達に出来ることは何だろう・・・と、考えさせられる日々でした。

さて、11日はマエストロ・ポリーニのミュンヘンでのリサイタルの日。曲目変更をお知らせしましたが、この日もキャンセルとなってしまいました。「冬の体調不良」ということで、インフルエンザ(?)が長引いてしまったようです。既に来シーズンの11月21日にリサイタルの日取りが決まっていたので、そこに振替え、チケットは有効ということでした(プログラムは未定ですが)。

2日にはロンドンで、延期されたリサイタルが無事に行われて、聴きに行かれた方からメールを頂きました。
始めにシェーンベルクの6つのピアノ小品がブーレーズに捧げられました。優しい静かな演奏だったそうです。ある評にも「完璧な捧げもの」だった、とありました。
前半のシューマンは余り好調な演奏ではなかったようです。ややアタックに欠け、音の強弱のバランスにも欠けた印象で、力任せのフォルテやフレーズのバラつき、急ぎ過ぎて危うい個所があったり、と。大きな拍手を受けても終始笑顔を見せることなく、硬い表情で退場されたとのことでした。
ところが休憩後は一変して、明るい笑顔で登場され、ショパンは素晴らしい演奏になったようです。「舟歌」は落ち着いた、深みある、技巧的にも安定した美しい音の演奏で、聴衆も安堵と感動を一緒に味わったようでブラボーが発せられ、マエストロも笑顔で応えられたそうです。ノクターン、幻想ポロネーズも素晴らしい演奏、最後のスケルツォ第3番では会場がヒートアップして行くのが感じられ、最後の音とともに歓声とブラボー、拍手が沸き起こり、ポリーニも満面の笑みで応えられたとのこと。
アンコールのバラード第1番についてはメールを引用させていただきます。
「幸運なことにバラード1番は何度も聴く機会がこれまでにあったのですが、昨夜の演奏はどこか非常に特別な気がしました。ポリーニがバラード1番を弾いている、ということがまるで歴史的なことを目撃しているように思えました。音の美しさ、深さ、強弱、技術の確かさ、マエストロの感情の入れ方、全てが完璧と思えた見事な演奏でした。最後の音の一つ前の音とともに、スケルツォの後よりもまだ大きな、今回は全会場が一丸となってのウァーという大きなどよめきになり、日本語にすると、うわあーっ、だとか、やったーっという感じで、この素晴らしい演奏への聴衆の、素直な感動と驚きが会場を包みました。わたくしはこれほど素直な感嘆をこのホールでも他のホールでも聞いたたことがありません。ほとんどの人が立ち上がってのスタンディングオベーションとなり、マエストロも本当に嬉しそうになさっていました。」
最後にノクターン第8番の美しい落ち着いた演奏で、この夜のリサイタルを終えられたそうです。

次に予定されているのは、4月の北京と日本でのリサイタル。長い旅に備えて、十分休養なさり、早くすっかり恢復されることを、お元気で来日されることを、心からお祈りしています。

一つ心が温かくなるニュースを。
マエストロ・アバドが創設し育てあげたモーツァルト・オーケストラ、彼が亡くなる直前に資金不足で活動を休止せざるを得なくなりました(その直後のオマーンの演奏会はポリーニも参加して行われましたが)。このオーケストラがアバドの音、その音楽を再び蘇らせようと、活動を再開することになりました。資金集めに、まずベルリンでアバドとの演奏のフィルムを公開し、ボローニャではメンバー有志の室内楽演奏会を行うとのこと。多くの演奏家や音楽団体、演奏会場、音楽祭の支援を受けながら、2017年春にハイティンクの指揮で演奏会を開く予定だそうです。そして協力するピアニストとして、アルゲリッチ、ピリス、ポリーニの名が挙がっていました。アバドを敬愛し慕う音楽家、あつい友情を忘れ得ぬ音楽家が、沢山いるのですね。

来シーズンの予定が少し判ってきましたので、スケジュール表に付け加えて、更新といたします。

2016年 3月13日 23:20

音の春
今日は気温も上昇し、春めいた陽気でした。「春一番」かと思うほどの強風でしたが、関東地方ではまだのようです。明日に掛けて大荒れの天気、雪国では雪崩に注意、雪山やスキーも厳重にご注意ください。それで、来週はまた寒の戻りとか。2月は冬と春が行ったり来たり、体調管理も難しい時ですね。

さて、1月のベルリン・フィルとのショパン:ピアノ協奏曲第1番の演奏を、お聴き(ご覧)になりましたか? 私は早速7日間チケットを買って、聴きました。詩情豊かな、美しい演奏でしたね。モーツァルトの2曲の協奏曲(17番、21番)も、ベートーヴェンの合唱幻想曲も、聴きました。マエストロ・アバドのお元気な指揮姿も懐かしく拝見して、時の流れをしみじみと思わずにいられませんでした。

1月末はスペインでの演奏会、2月初旬はパリでの演奏会でした。これには評があり(残念ながら読めませんが)、初めにブーレーズへのオマージュとしてシェーンベルクの6つのピアノ小品を弾いたそうです。シューマンとショパンはとてもロマンティックな演奏、アンコールは「革命」とバラード1番の2曲でした。

親しい友人で、敬愛していた大御所ブーレーズの逝去に、ポリーニもさぞ気を落していることと思いましたが、先日La Stampaにインタビューが載りました。

“新しい音楽を創造する勇気を取り戻しましょう”

革新的な空間を演奏会ホールにも

「ワグナーはベートーヴェンの第9シンフォニーを聴衆に受け容れさせるために、闘わねばならなかったのです。それは今では誰もが知っていて、ヨーロッパの讃歌に、まさに自由のシンボルになっています。新しい音楽はいつも成功するのに大変な思いをしたのです。」

マウリツィオ・ポリーニは音楽家、改革者としての彼の人生に痕跡を残す理想に、今なお忠実でいる。友であるピエール・ブーレーズの死の数週間後、芸術家の叫び声を上げる。忘れないために、慣れが明白さに勝らないように。会見に充てられた時間はいつもどおりだった。家で、15時から、午前の研究の後、昼食の後で。

「ブーレーズは作曲の天才で、オーケストラの偉大な指揮者で、評論を執筆し、現代の音楽を広めるために出来得ることを全て行った人物です。生涯にわたり首尾一貫していました。彼が亡くなったことは、私には悲しみであり、不安を覚えます。」

彼の音楽と彼の時代が忘却されるという不安ですか?
「総体的な問題なのです。シェーンベルクは100年以上前に調性音楽を捨てました。でも、世界の大多数の聴衆は未だにこの特別な歩みを完全には理解していません。この音楽の表現力が判らないのです。」

なぜでしょう?
「十分に聞いていないからです。その音楽言語を興味と喜びを持って辿ることに慣れるような演奏が、不足しているからです。」

現代音楽を好まない人は、それを拒否するのは我々の耳の自然の性質だ、と言います。
「いいえ! 1400年には音楽作品が古典派やロマン派の時代の作品の終結のように終わるのは、想像もできないことでした。耳の自然な性質が調性音楽向きだということはありません。しきたりと習慣があり、それらは傑作によって確証されてはいますが、しかし自然の法則ではないのです。」

現代音楽の作曲家は聴衆を無視していたのではないですか?
「芸術家はいつも理解されることを望んでいます、でも聴衆のことばかり考えることはできません。彼の動機は探求なのです、さもなければ 気晴らしとなり、作品の偉大さではなく儚い喜びを考えるだけになるでしょう。」

現代の聴衆は無精で、冒険に走ろうとしないのでしょうか?
「これは勿論問題です。さらに、演奏家は新しい音楽を必要な頻繁さでは提供しないし、施設(団体)はリスクを恐れるばかりです。私の経験では、或いは、私は幸いにも、勇気はいつでも、聴衆にもまた、報いられた、と言うことが出来ます。」

聴衆と創造性に関わるこの難しさは、絵画や彫刻、文学の中では生じません。
「それらはより楽に体験できます。観衆との間のインパクトの在り方(仕方)は様々です。音楽は、耐えなくてはなりません。」

耐える?
「絵の前で、彫刻の前で、君は自由です。数分または5秒で見て、先へ行くことが出来ます。面白くない本は閉じることが出来ます。音楽の大作は1時間もじっと聴いていなくてはなりません。」

聴くための新しい場所を考案する必要がありますか?
「何人かの作曲家、例えばノーノ、べリオ、シュトックハウゼン、それに建築家のレンゾ・ピアーノが為した省察です、伝統的なコンサートホールは全てのレパートリーにおいて機能を果たしはしない、と。」

書かれた音楽は無音です。演奏され、解釈される。貴方はカリスマ性ある演奏者です。カリスマとはなんでしょう?
「家で研究している時も、聴衆の中に居る時も、私の仕事は常に理解を新たにすることです。決してやめることのない仕事です。音楽を理解したと言い得ることは、未だ一度もありません、永久に。このことが緊張をもたらし、聴衆にも伝わるのだと思います。」

演奏者の忠実性(正確さ)、或いは自由について。
「忠実性(正確さ)は必要です、でもそれで十分ではありません。常に不確定の要素があり、それが創作者と演奏者が一体化するのを決定するのです。」

ソリストとオーケストラ、指揮者の間ではどのように相互の了解が創られるのですか、例えば貴方とアバドとでは?
「音楽的感性の回路が生まれるのです、それは混和することも、しないこともあります。アバドとは毎回、相互一致を獲得しました。共通の感性が助けとなり、多くの異なる状況で、稀なる錬金術を達成するよう導いてくれたのです。」

貴方は再生された音楽を聴きますか?
「ディスクで沢山聴きますよ、役に立ちます。君は聴きなおすことが出来て、より(鑑賞を)深めることが出来ます。私はコンピューターを持っていません、この世から切り離されていますね。」

クラシック音楽を軽音楽と区別するものはなんでしょう?
「もちろん、違いがあります。まさにこの違いを聴衆に感じて欲しいのですが。」

2016.1/22 LA STAMPA  Sandro Cappelletto

今シーズンの5月以降のプログラムが判ってきましたので、追記します。
また、新たな日程が幾つか判りました。一つはこの夏の音楽祭(ラインガウ音楽祭)、あとは来シーズンの日程です。
2017年、ロンドンで2回、ニューヨークで3回、そしてシカゴの演奏会です。曲目も興味深いものが有ります。スケジュール表に加えましたのでご覧ください。

2016年 2月13日 19:30

地には平和を
明けましておめでとうございます! 本年もよろしくお願い申し上げます。

皆様、明るいお正月をお迎えのことと存じます。この三が日は穏やかな暖かい気候でした。四月上旬並み、ところに拠っては夏のような気温だったとか。いつもなら北風に身をかがめて縮こまって行く初詣も、長閑な気分で行けました。皆が健康に過ごせて、明るい良い年になりますように・・・。

でも、今年は短いお正月休みで、本当にノ〜ンビリする間もなく仕事始めとなってしまいました。
旧年・新年と言っても暦の上の話、実際の時間は途切れることなく流れていて、去年の問題は山積したまま、そのまま今年の問題になっているのですね(我が家のし損なった大掃除の如く…?)。
通常国会が例年より前倒しで4日から始まったと聞けば、そういえば去年の秋に開催を要求されながら、何やかやとの理由をつけて開催されなかった国会が、やっと今開かれるのか・・・と思います。去年の問題はこれからも問題であり続けるし、新しい難題が次々と生まれそう。国会という最高の議論(?)が行われるべき場所では、冷静に、公正に、多くの、いえ全ての国民それぞれの納得がいくまで、話し合いを重ねてほしいものです。
曲がり角の先にあるものは・・・? そして、引き返すことはできないのか・・・?

今日は1月5日。マエストロは良き新年を、幸せなお誕生日をお迎えのことと思います。
4月には久しぶりに日本を訪れるマエストロ。健康で、素晴らしい一年を過ごされることを、心から願っています。
西の空、イタリアの方に、お祝いとお願いを送りましょう、心を込めて!

Buon Compleanno!
Tanti Auguri!

マエストロ・ポリーニ、74歳のお誕生日おめでとうございます!
お元気に活躍され、幸多き一年となりますよう、心からお祈りいたします。

春の日本で、お待ちしています!

15日から、リサイタルのチケットの発売が始まります。久しぶりの来日で、チケット取れるかな?とちょっと不安になりますが、頑張りましょう。

ヨーロッパでも異常気象で、暖かい日があるかと思えば、急激に気温の下がる日もあるそうです。
ベルリンで今年初の演奏会を迎えるマエストロ。風邪などひかれませんように、素晴らしい演奏会になりますように!と願わずにいられません。久しぶりのベルリン・フィルと、共演を重ねているティーレマンと、キャリアの初めから親しんだショパンの協奏曲と。きっと、あの美しい曲を、新たな視点で捉えて、その魅力を十分に聴かせる演奏になるのでしょう。

3月までは、ドイツ、スペイン、フランス、イギリスと、ヨーロッパの大都市での演奏会が予定されています。何かと不穏・不安なことの多いヨーロッパ。自らをヨーロッパ人と感じているというマエストロには、気懸かりなことの多い昨今の状況でしょう。
音楽の持つ力が、音楽のもたらすものが、世界にある様々な差異を越えて、平和へと繋がって行くようにと、願ってやみません。

2016年 1月5日 12:40

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