時々の雑記帳

音楽のこと、ポリーニのこと、日々の雑感を、
時々(気まぐれに)、書き入れます。

更新状況もここに載せます。
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このほかの日記帳はこちらを、すぐ前のものは「冬」1〜3月を、後のものは「夏」7〜9月ご覧ください。

(4月〜6月)

青い花が好き
朝からの雨が上がり、明るい陽射しが戻ってきました。雨粒を乗せた紫陽花が生き生きとしています。梅雨の季節、関東では水不足と言われていますから、雨が多いのはまぁ良しとして、今年は(も?)ある地域に集中的に激しい雨が降る傾向のようです。
昨夜の大雨で熊本では土砂崩れで犠牲者も出たとか。大地震の被災地に、まだ避難生活を送る方々も多い土地に、またも災害が襲うとは・・・。心からお見舞い申し上げます。一日も早い地震からの復旧・復興と、被災した方々の安全と穏やかな日々の来ることを、願ってやみません。

さて、マエストロ・ポリーニは、昨日20日のミラノでの演奏会で今シーズンの活動を終えられました。演奏会の予告記事が幾つも出ていて、ミラノのファン待望の“イベント”のようです。ミラノっ子の誇りとするマエストロのお膝元とはいえ、その演奏会はそう頻繁にあるわけではありません。それでも昨年11月(5月から延期され)には素晴らしいリサイタルが行われ、最後は大喝采とスタンディング・オヴェーション。その記憶も蘇り、ますます期待が高まっているのでしょう。
リサイタルに先立って16日にはスカラ座のロビー・トスカニーニで、音楽を学ぶ学生に向けて、マエストロの講演会、というか対談が行われました。お相手のフランコ・プルチーニ氏は音楽学者、随筆家、スカラ座の編集監督(Direttore Editoriale)で、ヴェルディ音楽院で音楽史を教える人です。リサイタルの曲目についてだけでなく、古典から現代までに及ぶ、広範な音楽の話題が語られたのではないでしょうか。

5月末のベルリンのリサイタル。プラハのキャンセルの報にマエストロの体調が心配でしたが、急遽聴きに行かれたJanさんからメールを頂きました。ハンブルクよりもっと素晴らしかった! 健康面も問題なさそうに見えたよ、とのことでした。スケルツォ第1番は今シーズン初登場(確かに!)なのに、よく弾き込まれていて素晴らしかった、と。スタンディング・オヴェーションに応えて3つのアンコール、「革命」、バラード第1番、子守唄が奏されたそうです。
6月11日のウィーンのリサイタルも、「特別な演奏会だった」という評が出ていました(本文をちゃんと読めていないのですが・・・m(_ _;))。ホール中のスタンディング・オヴェーションを受けて、3つのアンコールでした。「革命」、バラード第1番、あと1曲は不明なのですが・・・。

お疲れ様、マエストロ! しばらくは休養の時。ゆっくりとリラックスして、楽しい夏休み(?)を過ごされますように。健康でベストな体調で、夏の音楽祭で活躍されることを、心から願っています。

今回の更新は新たに判ったスケジュール(ルガーノ、ジェノヴァ、ミラノ)の追加と、今回の来日の曲目やアンコールなどを追記しました。

2016年 6月21日 22:15

皐月のカゼに吹かれて
新緑が次第に色を濃くして、木陰が恋しい夏の気配となってきました。夏日の続く日々、先日は真夏日もあった5月でした。
ポリーニの演奏会から早や1ヶ月、皆様はもう平常心に戻られたでしょうか・・・とは、大げさですが、私はしばらくボ〜〜っと過ごし、少々体調を崩し(気が緩んだから、と笑われ)、でもGWには頑張って遊んだので体調はもっと悪化し・・・。月半ばのベルリン・フィル演奏会(「第九」、素晴らしかったです!)に間に合わせて快復し、やっと心身ともに落ち着いてきたこの頃です。

マエストロは演奏会翌日にイタリアへ帰られたそうです。ほぼ1ヶ月に及ぶ長いツアーで、さぞお疲れになったことでしょう。体調は如何かと心配でしたが、5月9日のハンブルクのリサイタルは無事に行われました。
Janさんから「とても素晴らしかった!」とメールがありました。始めにブーレーズのためにシェーンベルクのピアノ曲が捧げられ、アンコールは「革命」と「バラード第1番」でした。
この演奏会では、冒頭にアフガニスタンからの難民の少年(18歳)のメッセージが読み上げられ(本人or別人かは判りませんが)、ブーイングが起こった、との記事がありました。ハンブルク音楽祭のテーマが「自由」で、主催者側からの提案だったようですが、勿論マエストロもOKされてのことでしょう。若かりし頃の彼自身の「事件」を思い起こしましたが、ヨーロッパを揺るがす「難民問題」に深い関心を持っていらっしゃるのは、やはりポリーニらしい、ですね。ブーイングをした聴衆も、マエストロの演奏にはスタンディング・オヴェーションで讃えたようです。

ホッとしたのも束の間、「プラハの春音楽祭(6月3日)キャンセル」の報が伝えられました。健康上の理由で、とのこと、どうなさったのでしょう・・・。
でも、今月末のベルリンはキャンセルなし、6月半ばのウィーンも今のところ行われるようです。また、この2回の公演でも、シェーンベルクの作品がブーレーズに捧げられる予定です。
深刻な症状でないことを、早く恢復されることを、心から願っています。
なお、プラハでは昨年のショパン・コンクールで2位になったシャルル・リシャール・アムランが代役を務め、オール・ショパン・プロを披露するそうです。

来シーズンのスケジュールが、また幾つか発表されました。10月シュトゥットガルト(2月から延期)、12月チューリッヒ、来年2月ケルン、3月にベルリンでのリサイタルがあります。
また既にご覧になったかもしれませんが、6月のカーネギーホールでの協奏曲は、レヴァインに代わり、エサ・ペッカ・サロネンが指揮します。

先ほど、Janさんからメールが届きました。嬉しいお知らせです!
なんと、ポリーニの新録音が行われたそうです! プロデューサーのChris Alder氏のツイッターに、ミュンヘンでポリーニと録音を終えた、とのツブヤキが。曲目はショパン:Op.59-63、Op.68/4 とのこと。
Op.59:3つのマズルカ、Op.60:舟歌、Op.61:幻想ポロネーズ、Op.62:2つのノクターン、Op.63:3つのマズルカ、Op.68-4:マズルカ・・・晩年の傑作ばかり! 素晴らしいですね〜〜〜。
どうか無事にリリースされますように! おクラ入りになりませんように!!!

2016年 5月25日 23:15

大きな花束を
初夏を思わせる風に新緑が美しく映えています。我が家付近の街路樹は鮮やかな色のツツジ、風に揺れるライラック、乳白色が優しいハナミズキ。芳香も漂い今が一番美しい季節かもしれません。
3週間ほどの滞在でしたが、マエストロも美しい日本の春を、楽しんで過ごされたでしょうか。

21日、とうとう最後のリサイタルの日になりました。この日は曇り空、夕方から雨。湿度が高くなるけれど、ピアノは大丈夫かしら・・・そんな心配は無用で、この日もFabbriniのピアノは美しい音の輝きを発してくれました。

今回の席はやや右寄りの前の方。マエストロの横顔がよく見える位置でした。
椅子の高さをちょっと調節して、すぐに演奏に入るマエストロ。前奏曲の繊細で精緻な音が綴られていくのを聴くうちに、マエストロの好調さが感じられてきます。静かに弾き終わると、すぐに続けて幻想ポロネーズ。美しいフレーズが次々に現れては変化してゆくラビリンスのような難曲を、ファンタジーを膨らませながら、気宇広大な深みある曲へと構築していきました。ショパン晩年の孤独、哀しみ、夢、憧れ・・・言い知れぬ想いが込められた曲の真実に迫る、渾身の演奏でした。割れるような拍手、一旦舞台を去るマエストロ。
晩年の作品62の2つのノクターンも歌に溢れた美しい演奏でした。特に1番のトリルの美しさは夢のよう。2番は私の大好きな曲、ショパン辞世の曲と(勝手に)思っているので、ポリーニの演奏は深く心に染み入りました。
3つのマズルカは、初めて聴く曲でした。素朴な舞曲、などではない充実した作品、ショパンの祖国ポーランドへの思いの籠った曲なのですね。ポリーニが弾くとその重みが伝わってくるようです。
最後はスケルツォ第3番、先日のアンコールでも迫力と美しさに圧倒されましたが、この日もまた素晴らしい演奏でした。重厚な音でダイナミックに、勢いを得て疾走する中に、ふと花びらが降るような優しいフレーズが表れ、光りの粒が煌く夢幻の世界に誘う、その対照的な曲想の展開に心揺すぶられ、ドキドキさせられ、熱狂させられました。マエストロの熱い演奏に、ホール中の温度が数度上がったようでした。

大きな喝采に応え、笑顔を見せるマエストロでしたが、さすがにお疲れの様子。すぐに25分間の休憩となりました。
数名のファンの方とご挨拶。皆さんちょっと上気して、興奮の面持でした。Fabbriniさんが調律を始めましたが、割に早く終わったようです。あんなに激しく弾いたのに、後半も託せる良い状態だったのでしょう。

後半はやや軽い足取りで登場のマエストロ、また椅子を少し調節して、演奏に入ります。今回はほぼノンストップ、次々と12曲が奏でられました。
透明感ある粒立った音ですが、微妙なタッチから生まれたのでしょう、「霧」にはその情景を思わせる印象がありました。オリエンタル風の音、スペインのリズム、軽やかな音の舞い、「ヒースの茂る荒地」の優しい静かさは癒しのよう。ユーモラスなリズム感の「ラヴィ―ヌ将軍」を堂々と弾いて、すぐに後半へ進みます。精妙な月の光を静かに描き、水の精のこの世ならぬ幻想性を表し、英国国歌が突如現れるユーモア。カノープの古代を思わせる精妙な響きから、時代を越えて現代へ通じる「交替する三度」。本当に多彩な個性豊かな曲達を、ポリーニの手は丁寧に見事に描き出してくれました。
最後の「花火」。ああ、これでリサイタルは終ってしまう、と思うと、一音も聞き漏らさないように、耳を澄ませて、一層身を入れて聴くことになります。マエストロは既に十分集中力を高めているのでしょう、気負うことなく自然な感じで弾き始めました。美しい音、煌めく音、轟く音、疾走する音、見事なグリッサンドと繊細なトリル。ダイナミックでパワフルで、しかも精妙さに満ちた、本当に素晴らしい圧倒的な演奏でした。

興奮気味の客席から熱い拍手喝采とブラボーが飛び交います。花束を捧げる方達も多く、舞台上でも大きな花束が贈られました。
アンコールはまず「沈める寺」で、ドビュッシーの余韻を味わいました。大きな構えの演奏で夢幻の世界が広がります。さらに「バラード第1番」、待ってました、マエストロ! 美しいドラマティックな曲の、愛情の籠った演奏は、いつ聴いても圧倒され、何度聴いても聞き飽きない、聴くたびに幸福感に満たされるものでした。
少しお疲れが見えるマエストロ、早めにホールの灯りが点きましたが、スタンディング・オヴェーションは止まず、何度も笑顔で舞台に出てきてくれました。ありがとうございました、マエストロ!!!

2月〜3月、体調不良で幾つかの演奏会をキャンセルされたマエストロでした。来日直前の北京公演も中止となり、日本には本当に来て下さるのかしらと、心配したものでした。無事に来日され、ホッとしたものの、ホール(東京文化会館)を歩くお姿を見ると、背を丸め一回り小さくなったようでした。でも、舞台に出て、ピアノの側に立つと印象が変わります。そしてピアノを弾き始めると、ああ、やっぱりポリーニだ、と思います。美しい音、集中力の強さ、怜悧な視点、ダイナミックな力強い演奏、そして心からの歌・・・。
今回の公演は「日伊国交150周年記念」のイベントの一つであり、サントリー・ホール30周年を記念する公演でもありました。また東京・春・音楽祭へのポリーニ・プロジェクトの参加もありました。
日本で行う重要な演奏ツアーのために、体調を整えて、長い道のりと長い時間をかけて来日されたことに、感謝するばかりです。
日本のファンも心から賛嘆を送り、感謝を伝えられたと思います。そして、数年後に再び来日されることを心から願っていることを、マエストロに伝え得たと思っています。Grazie mille, Maestro Pollini! それから、多大な尽力で招聘を成功させたKAJIMOTOの皆様にも、感謝いたします。

はるばるアメリカから、また北海道や九州から、マエストロのピアノを聴きに多くのファンの方がいらっしゃいました。ポリーニの引力は凄い!ですね(*^^*)。
皆様とご挨拶し、感動を分かち合うことが出来たのも、嬉しいことでした。また、きっと、Fabbriniのピアノの下で、お会いしましょうね!


新たに判ったプログラムや日程があります。スケジュール表に付け加えました。

2016年 4月24日 17:30

芳醇な音色
4月16日サントリーホール。この日の演奏をどんな言葉で表せば良いのでしょう。どうすればあの賛嘆の想いと感動を伝えられるのでしょう。

9日の川崎で感じたマエストロの来日への安堵と感謝。
初のホールでの緊張感からか、少し不安定な個所もあったものの、美しい音で奏された前半のショパン。緊張がほぐれた後半では、明晰な音で美を追究する集中力に満ちたドビュッシー。丁寧に真摯に曲と向き合うマエストロの姿勢に、見事なテクニックに、ポリーニ健在!と思ったものでした。
しっかし、健在!どころじゃなかった! その先の、さらに上を行くマエストロでした!

サントリーホールには開場と同時に入場者が列をなし、華やかなロビーには熱気とともに期待感が溢れていました。久しぶりにお会いする熱心なファンの方達とご挨拶するうち、4年ぶりに、このホールで、ポリーニ・リサイタルを聴く、という喜びが、より増してきます。会場もほぼ満席となって、興奮の度合いも高まって行きました。

定刻を少し過ぎて、いつもの前かがみながら、しっかりした足取りで登場のマエストロ、ブーレーズへの追悼として静かにシェーンベルクの「6つの小品」を弾き始めました。精妙な音を紡ぎながらブーレーズへの思いを深めて行くような、静謐な、しかし熱い演奏でした。退場するマエストロの目に光るものが・・・と、後である方から教えていただきました。

この日の私の席は、1階前方の左寄りの席、演奏する手がよく見える位置でした。ピアノは勿論"Fabbrini"、金文字が光り、華やかに、また安心感(?)を感じさせます。
シューマン「アレグロ」は奔流のように激しい想いが溢れる曲、ポリーニの手から生まれる音の熱さと激しさに耳も目もクギづけになります。一方花びらが舞うように優しいフレーズが浮かぶ美しい曲想は、優しく軽やかにその指から生み出されます。ドキドキしながら聴き始めましたが、ホーッと安らいだ気持ちで聴き終えました。

「幻想曲」はさらに充実した演奏でした。ソナタとして構想されながら、溢れ出る自由な楽想で、ソナタを越えてしまった曲。ファンタジーは大きく高みへと飛翔し、細やかなフレーズは感情を込めて優しく奏されます。第2楽章は力強く躍動感一杯に、フィナーレは穏やかな心地から夢が羽ばたくように高まりを増して、壮大な煌く音の伽藍を打ち建てました。若き日から取り上げているこの大曲に、ポリーニは愛情を込めて、より自由に自在に演奏しているようでした。音の美しさもポリーニならではのもの、高音部の煌めきは鮮やかに、低音部の重量感ある音は透明感を持って深々と響きました。
ホッとしたような表情で席を立つマエストロに、ホール中の熱い拍手喝采、そして笑顔で応えてくれたマエストロでした。

休憩中も何人かのファンの方と感激と感想を分かち合い、ヒートアップしたまま、また新たな期待に満ちて、後半の演奏に臨みます。

「舟歌」冒頭の重厚な音は澄んだ水底を覗くような透明感を湛え、揺れるリズムにのって歌われる歌はクッキリと豊かに、明るい日の光、また水の反映のような高音の煌きは眩いほど。その中に秘かに哀切な思いが潜んで、光が影を濃くして、曲は深みを増していく・・・ショパン晩年の傑作は、ポリーニの手で素晴らしい壮麗な姿を現しました。
ノクターンは前に聴いた時より、強い曲想に、緊張感ある曲に聞こえました。より深い思索の込められた曲、より精妙な美しさの宿る曲を、ポリーニは自然な息遣いで優しく奏でてくれました。
小さな宝石のような音で描き出された子守唄。ゆりかごのリズムは精妙に優しさを湛えて奏され、夢のような美しい子守唄になりました(でも、今夜は眠れそうにありません・・・)。

一旦舞台を下がって一息ついて、プログラム最後の曲「英雄ポロネーズ」が始まります。パワフルに、ダイナミックに、天と地を駆け巡るように音が渦巻きながら、壮麗な響きの大伽藍が現出しました。マエストロが全身全霊を込めて演奏した、心・技・体いずれも最高のものによって為された、圧倒的な音楽でした。

熱烈な拍手と歓声。ご自身も満足そうな表情のマエストロでした。幾つかの花束にこぼれる笑顔。ホール(主催者?)側からの大きな花束の贈呈もありました。ますます高まる拍手(スタンディング・オヴェーションも)に応えて3曲のアンコールを弾いてくれました。「革命」のエチュード、スケルツォ第3番、ノクターン第8番。「第3部」のような充実した曲と演奏でした。特にスケルツォ! 果敢な打鍵もさることながら、高音の光が煌めくパッセージのしなやかさは心に染み入るものでした。そして最後に「おやすみなさい」と、ポリーニ愛奏のノクターン。(やはり、今夜も眠れそうにありません、マエストロ!)

以前ポリーニの弾くベートーヴェンのソナタを聴いた時、素晴らしい演奏に感動しつつも、ベートーヴェンの「音楽」そのものにより感動を覚えた、ような気がしました。今回ショパンの名演に触れて、勿論ショパンの音楽が素晴らしいのは判っているけれど、それ以上にポリーニの「演奏」に感動している私です。いや、素晴らしいショパンの音楽をこの世に現出させるポリーニの演奏、彼の存在そのものが奇跡のようで、感動しているのかもしれません(どう言えばいいのか、自分でもよく判らないのですが・・・)。
マエストロ・ポリーニと同時代に生きて、その演奏を聴くことが出来るなんて・・・! 本当に感謝するばかりです。

2016年 4月19日 15:10

ミューズの微笑み
桜が満開の頃に来日されたマエストロ、寒い日や雨の日もあったけれど、リサイタル初日は晴れて暖かい日で良かった! ピアノも良い調子かしら? と思いながら、夕暮れの川崎へと急ぎました。

席に付いた途端、Fabbriniの金文字が記されたピアノ、マエストロのピアノが目の前に。ああ、本当に、マエストロのリサイタルが、無事に行われるのだ! Benvenuto, grazie, Maestro!! 

初めて行ったミューザ川崎のシンフォニーホールは、不思議な形をしていました。ワインヤード式でも整然とした左右対称ではなく、螺旋状に客席が配置されています。1階の客席の奥行き(幅も)が少なく、2階席はその上にせり出すのではなく、後ろにというより周囲に、低めの壁をもって設けられています。舞台(と1階席)をぐるりと取り巻き、螺旋状に次第に高度を上げて3階、4階へと繋がっているようです。
私の席は2階のセンター部でしたが、舞台のピアノが驚くほど近くに見えました。舞台からも客席は近くに見えるでしょうし、周りをしっかり取り囲まれている感じがすることでしょう。インティメートな空間、そんな言葉が過ぎります。マエストロにとって、心地良い空間であってほしい!と思いました。
ポリーニの演奏会には珍しく、当日までチケットが売り出されていましたが、ところどころ空席があるとはいえ、開演前にはほぼ満員のホールでした。日中は5月並みの陽気だったし、空調も控えめなのか、ホールの中が暑い・・・のは聴衆の熱気、期待の高まりゆえでしょうか。

定刻より少し遅く、前かがみにゆっくりとした足取りで登場のマエストロ。
プログラム変更で前半がショパンの作品、1曲目は嬰ハ短調の前奏曲でした。音は粒が立って美しく、低音部も透明感ある響きでしたが、時々「?」や「!」の箇所もあり、精妙な音の繋がりがややぎこちなく感じられるところもありました。すぐ続けて舟歌が始まりましたが、この途中でスィッチが入った!?と思われ、美しい旋律を歌わせ、絢爛たる音を散りばめた豪華(客船的?)な舟歌となりました。
一旦退場後のノクターンはショパンの孤独な心が感じられる詩情に満ちた内省的な演奏。拍手に応えて一礼。そのまま、高音部の煌きが美しい子守唄を精妙に奏で、すぐに英雄ポロネーズが始まりました。やや早い(と思われました)テンポでグイグイと、力強く雄大に弾き進めて行きます。低音の分厚い響きもダンゴにならず、高音の美しい音は光りを発し、大伽藍のような壮大な「英雄」的なポロネーズ、圧倒的でした。
身動ぎも出来ずにドキドキして聴き入っていたのは、私だけではないでしょう、聴衆全てだったかもしれません。ホールの温度が、汗ばむほどに上昇したように感じられました。熱い拍手喝采にマエストロも笑顔で応えてくれました。

休憩後は、少し軽い足取りで登場のマエストロ。
ドビュッシーの前奏曲集第2巻の演奏は、大切な曲を慈しみながら、丁寧に音を紡いでいくかのよう。と言っても、感情を込めて、というよりは、知的に把握し、明晰な、精緻な響きを丁寧に生み出していく、という感じです。そこから一曲ごとに様々な詩情が浮かび上がり、曲の個性が際立つのです。
粒立ちの良い音で奏でられるため「霧」もクッキリと響き、「枯葉」は風に舞う落ち葉が目に浮かぶよう。ほぼ間を置かずに演奏が進み、卓越したリズム感で奏された第6曲の後に小休止。精妙な音での月の光の描写から後半が始まり、静謐な「カノープ」、技巧的で前衛的な「交替する三度」へと進みます。一息いれて、「さあ、行くぞ!」みたいな気合を入れて、終曲「花火」を敢然と弾き始めました。絢爛豪華な音、完璧な技巧によるダイナミックな演奏は、まさに圧巻でした。

熱い熱い拍手喝采は止むことなく、アンコールはまず「沈める寺」。幻想の異次元の世界が大きく広がります。さらにバラード第1番。やっぱり、ポリーニのアンコールはこれでなくては!などと(勝手なことを)思いながら、真に美しい演奏に聴き入りました。熱狂・称賛・感動そして感謝・・・拍手は鳴り止まず、ホールに灯りが点いてからも、皆でスタンディング・オヴェーションで讃え、マエストロも何度も笑顔で応えてくれました。
4年ぶりのポリーニの来日。第1夜はこうして無事に成功裡に終わりました、暖かい照明のMUZAで、ミューズの祝福を受けながら。

G7外相会議で来日のイタリアのジェンティローニ外相も聴きに来たそうです。休憩時には楽屋で談笑していたのかもしれませんね(^^)

プログラムに添えられた1枚の紙に「ピエール・ブーレーズを悼んで」とありました。
14日・15日のポリーニ・プロジェクトの第一夜・第二夜、16日のリサイタルの3公演を、ピエール・ブーレーズに捧げます、と記されています。
16日のリサイタルの冒頭に、シェーンベルク「6つのピアノ小品」を彼のために演奏する、とのことです。

2016年 4月11日 14:30

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