残暑きびしい日が続いています。皆さまお元気で夏をお過ごしでしょうか。
私は、熱中症にならぬよう、不要な外出は避けて室内で適切に冷房を点けて(とのお天気キャスターさんの忠告に従って)過ごしています。
ブラジルでは今やオリンピックがたけなわ、普段スポーツには興味が無い私も、お蔭でテレビで競技を観戦することも多く、厳しい鍛錬のもたらす素晴らしい技に魅了され、記録を塗り替える速さ・強さに目を見張りながら、日本の選手に、またメダルに輝く世界のトップ・アスリートに、拍手を送っています。
しかし4年後にはこの大会が東京で行われると思うと、ちょっと複雑な気持ちです。だって、この酷しい暑さの中で、こんな激しいスポーツを選手の皆さんにさせて、良いのかしら? 熱中症厳重注意のこの環境で、外国からのお客様を「お・も・て・な・し」なんて、出来るのかしら? と思ってしまいますから。爽やかなスポーツの秋に、開催されれば良いのに・・・。
さて、夏恒例の音楽の祭典も各地で開かれています。マエストロ・ポリーニは、8月9日にウィースバーデンにて、ラインガウ音楽祭に出演されました。プログラムはショパンとドビュッシー、それに冒頭にブーレーズに捧げるため、シェーンベルクの「6つのピアノ小品」が追加されました。次のルツェルン、ザルツブルクでもこの曲目の追加が発表されています。
評を見ると、前半のショパンではマエストロの調子はあまり良くなかったようで、不確かな部分や、ペダルの多用で明瞭さが損なわれたりしたこともあったようです。でも後半のドビュッシーでは音も透明感を得て、素晴らしい演奏だったようです。抒情的な繊細さ、アポロ的な輝き、慎み深い誇り高さ・・・抜きん出た音楽家としての彼の全てを表した演奏だったと、評にありました。
スタンディング・オヴェーションの喝采となり、アンコールは3曲、「沈める寺」、ショパンの曲(不明)、最後に美しい「子守唄」。熱心に耳を傾けていたホールの静寂の中に、感動した女性の心からのDanke!"という声が響いた、と。
17日にはルツェルン音楽祭への登場です。
今夏はポリーニの音楽祭40周年を記念する年です。1976年8月26日に初めて登場し、ベートーヴェンのソナタ3曲、「田園」「熱情」「ハンマークラヴィーア」を演奏したと、記録にありました。若きポリーニの意欲的なプログラム、どんなに素晴らしい演奏だったことでしょうね。(録音など・・・ないのでしょうか?)
ちなみに、40周年といえば、ヴァイオリニストのムターさんも今年同じ記念年を迎えます。彼女は僅か13歳で「若き芸術家達」というテーマの下に登場したそうです。若い才能を見出し、育てることがこの音楽祭の重要なテーマなのでしょう。
ポリーニはこの音楽祭で何回もリサイタルを開いていると思いますが、2003年にアバドがルツェルン祝祭管弦楽団を再創設(トスカニーニが1938年にスイスの主要オーケストラの団員を集めて、音楽祭のために創設、その後1990年代に活動を止めていた)してからは、協奏曲でも多くの演奏を行っています。
2004年にはベートーヴェンの第4番を弾き、ルツェルン・アカデミーでマスター・クラスを行い、ブーレーズ指揮でアカデミー管とシェーンベルクの協奏曲を共演、と大活躍。
ほぼ1年おきに登場し、2006年にはブラームスの第2番で共演しました。その年の秋には「ルツェルン・フェスティヴァルin東京」のツァーに同行し、素晴らしい演奏の数々を堪能させてくれました。日本のファンにとって、本当に嬉しい来日でしたね。
その後Pollini Project(2008年、2010年)やPollini Perspectives(2011−2012年)で、古典〜現代音楽の演奏や、音楽祭と共に新作委嘱も行ってきました。 2012年の来日では日本にもその成果がもたらされましたし、多くの都市で披露されてきました。
この音楽祭はポリーニにとって重要な活動の場であり、また音楽祭にとっても真に大切な演奏家なのでしょう。
2014年、アバドの逝去の年には、A.ネルソンス指揮でショパンの協奏曲第1番を演奏しました。秋にはピアノ・フェスティヴァルに出演していますが、夏の音楽祭出演はそれ以来となります。
今年からはR.シャイーがルツェルン祝祭管弦楽団を率いることになりました。マーラー室内管弦楽団を母体に、ベルリンフィルのメンバーやアバドと親交の深い音楽家たちが自発的に参加した、まさに“アバドの元に”集まった楽団ですが、シャイー自身も弱冠18歳の時に、ミラノ・スカラ座でアバドのアシスタントを務めて音楽人生を始めた、という指揮者です。きっと、アバドの遺志を継いで、共に素晴らしい演奏活動を続けて行くことでしょう。
ブーレーズもこの音楽祭に非常に深い関わりのある音楽家でした。
2003年にルツェルン・アカデミーを創設、20-21世紀の現代音楽を中心に、若い音楽家を育てることに力を注ぎました。
1月の逝去はまさに「巨星墜つ」でしたが、4月には120名のアカデミー卒業生が集まって、ブーレーズ追悼のコンサートが開かれたそうです。
今夏からは作曲家のウォルフガンク・リームが芸術監督になり、(ブーレーズのように指揮は得意でないので)若いマティアス・ピンツァー(ブーレーズが創設したアンサンブル・アンテルコンテンポランの音楽監督)が正指揮者としてアカデミー管弦楽団を指導するそうです。また今年はA.ギルバートがマスター・クラスを行い、秋のピアノ・フェスティヴァルではR.レヴィンがピアノのマスター・クラスを開くそうです。
巨匠亡き後も、遺志を継いだ音楽家達によって、若い才能を育てる活動は続けられるのですね。
1月以来、ブーレーズへの追悼としてシェーンベルクの作品を捧げ続けてきたポリーニにとっても、このルツェルンでの演奏会は、とりわけ感慨深いものでしょう。どうか素晴らしい演奏会となりますように! 心からお祈りしています。
2017年のスケジュール表を作りました。まだ情報はごく僅かですが、ご覧になってください。