白木蓮が咲き始めました。灰色のビルの間に、白い大きな花がポツポツと明るさを灯しています。春を歌い上げるかの花、今年は大分遅い開花でした。
やっと、関東にも春一番が吹いたと報じられました。昨年より17日も遅いそうです。今年は本当に寒い日が多く、三寒四温という言葉があるけれど、四寒三温・・・では、いつまでも春が来ない!と、憂鬱になっていましたが、ようやく。桜の開花の便りも届き、春の歩みも進みそうです。
さて、先日は久しぶりにサントリー・ホールへ、アンドラーシュ・シフのピアノを聴きに行きました。
曲目はオール・ベートーヴェン。6つのバガテルop.126、ソナタ第32番、休憩後に「ディアべり変奏曲」という素敵なプログラムに「聴きたいな〜」と思ったのです。ところがこれは、1976年ポリーニ2度目の来日で演奏されたプログラムと同一と、Iさんから教えていただいて「聴かなければ!」という気持ちになりました。ああ、ポリーニもこんな瞠目に値する充実したプログラムを組んでいたのか・・・と、嬉しいような、「その時にタイムスリップしたい・・・」と、胸がキュンとするような、気持ちにもなりました。
この夜のピアノはベーゼンドルファー。ホールのピアノのようですが、聴くのは初めてでした。ちなみにシフもスタインウェイを弾く時に、ファブリーニに調律を依頼するそうです。
舞台にゆっくり現れたシフ。バガテルは1曲1曲丁寧に奏され、それぞれに小さな光ある小品でした。晩年のベートーヴェンの安らぎを感じられるのは、ウィーンナー・トーンのピアノだからでしょうか。3、4曲目ではポリーニのアンコールを思い出して懐かしくなりました。
ピアノの音は円やかで美しく、ややソフトと感じられました。高音部は硬質な宝石のように煌めくというより、耳に心地よい美音。低音部は強奏しても衝撃的でなく、深々とした響き。
すぐ続いて演奏されたソナタ第32番も素晴らしく、特に第2楽章の美しさと遥けさは、ベートーヴェンの偉大さをしみじみと思わされるものでした。演奏者よりも作曲者の心、というより曲そのものの素晴らしさを感じることが出来た演奏でした。
休憩後は「ディアべリの主題による33の変奏曲」でした。実は1991年、私には初ポリーニ体験だったのですが・・・後半の「ディアべリ変奏曲」は私には難し過ぎて・・・で、ちょっとウトウトもしてしまったり。その後ポリーニのCDを聴き込んで、大好きな曲になったのでしたが。でも、今宵長大な曲を集中して聴けるか、ちょっと心配でもありました。
聴きなれたポリーニの演奏を思い起こしては、そうそう、と思ったり、テンポ感が・・・と思ったり、こう聴こえるフレーズもあるの・・・と思ったり、1曲1曲を最後まで興味深く聴くことが出来ました。シフの演奏は素晴らしかったですが、聴き終わって感じるのは、やはりベートーヴェンの偉大さ、作品の素晴らしさ。そして、もう一度ポリーニの演奏をライブで聴きたいなぁ・・・。
この日の聴衆は皆とても熱心に聴いていて(時節柄、咳の音はありましたが)、シフの最後の音が消えるまで完璧に静寂を保っていました。良い演奏会は良い聴衆を育てる・・・と感じられた時でした。
大きな拍手に応えて、アンコールにはバッハ「ゴールドベルク変奏曲」からアリア。そして何度目かの登場の後、通訳の方を介してシフのスピーチがありました。そう、この演奏会は「東北に捧げるコンサート」として行われたのです。
地震、津波の被災に心を痛め、何か支援をしたい、と思い続けていたこと。そして3年が経った今、復興もなかなか進まない現状で、大切なのは「心」を寄せ続けていくこと、音楽のもたらす平安を信じて、その「心」を音楽に託して行動することだと思う、というような言葉でした。そして、この演奏会の全収益は東北の復興のために寄付されるとのことでした。
日本に寄せるシフの温かい心は本当にありがたく、その行為は尊いものと感じ入りました。
スピーチの後、もう1曲ベートーヴェンの作品を演奏します、との言葉。
そして、なんと、ソナタ第30番が全曲演奏されました! 美しい、心に沁みる演奏でした。感動と心からの感謝の拍手を送りました。
3月11日前後には東北の被災地の様子がテレビでも映し出されていましたが、3年が経っても、復興は緒に就いたばかり、いえ、実際はまだスタートも切れていない現状や、解決の目途もつかない難問も山積しています。
今、日本として一番大事なことは、東北の復興に全力を尽くすこと・・・6年後のスポーツの祭典も良いけれど、経済の発展も良いけれど、そのために復興事業が犠牲になったり、安全や安寧がないがしろにされてはならない、と強く思います。でも、さて、私達日本人は何をすれば良いのでしょう・・・?
ポリーニのサイトなのに、シフのことを長々書いて、お叱りを受けそうです。でも、シフの音楽に向き合う姿勢、社会への眼差しは、真摯で誠実で、ポリーニと相通ずる点も多々あるのではないかと思います。2007年ポリーニがウィーンで協奏曲を弾き振りした際に、前日コンツェルト・ハウスで演奏したシフが、楽屋に表敬訪問する姿に接しました。紅潮した面持で、親しそうに語を交わし、しっかり握手していた二人が目に浮かびます。
ポリーニはベルリンの演奏会を、好調の裡に終えたようです。Janさんから素晴らしかった! とホットなメールを頂きました。ショパンのソナタの第3、4楽章はfantasticで、今まで聞いた中でもベストと言えるほど。ドビュッシーはhighlightで、flexibleで、録音より更に自由で、素晴らしかった! 技巧は完璧で、美しい音も健在で、本当にhappyだった! 圧倒的なスタンディング・オヴェーション、と。
プログラムは変更があり、ノクターンの代わりにバラード第3番が奏され、アンコールには「革命」とバラード1番でした。
夏のルツェルン音楽祭では、ブラームスの協奏曲に代わって、ショパンのピアノ協奏曲第1番が演奏されます(Mさま、お知らせありがとうございました)。
何年ぶりのショパンの協奏曲でしょう・・・? 聴きたいですね〜〜〜〜
来年5月には、フランクフルトでリサイタルが行われます。この時期はずっとヨーロッパで活動されるのでしょうか。[2013-2014 Season]に日程を追加しました。