時々の雑記帳

音楽のこと、ポリーニのこと、日々の雑感を、
時々(気まぐれに)、書き入れます。

更新状況もここに載せます。
Menuへ

このほかの日記帳はこちらを、すぐ前のものは「秋」10〜11月を、次のものは「春」4〜6月をご覧ください。

(1月〜3月)

ゆっくりと、春
陽ざしは明るくなり、紅梅・白梅が咲き競い、芳香を漂わせています。沈丁花も香りを放ち、風はまだまだ冷たいけれど、春はもうすぐ・・・? 春分の日を迎えるというのに、あまりにもヘンな文です。今年は冬から春へのあゆみが本当に遅いようで、ひと月はオーバーとしても、半月は遅れているかしら・・・? でも、桜の開花予想は平年より2、3日遅れとのこと。イッキに春がやって来るのかもしれませんね。

けれど、遅れているといえば、この日(月)記帳の方がもっともっと。ヴァレンタインデーのチョコもとっくに賞味期限切れ・・・m(_ _;)m お恥ずかしい限りです。今年になってからバタバタと忙しさが続いて、パソコンやその環境の変化にも四苦八苦の日々でした。やっと少しは落ち着いたかなぁ、と思えば、もう3月も下旬。気が付けば「ポリーニ・パースペクティヴ2012」のチケット発売も“4月1日”と、目前に迫っているのでした。嗚呼、頑張らなくっちゃ・・・!

2月、3月のマエストロの公演は、各都市で「70歳おめでとう!」の歓声につつまれて行われたようです。
パリで2月14日に行われたリサイタルには“Saint Maurizio”と題する評(内容は読めませんでした(- -;)。この日のプログラムはベートーヴェンとシュトックハウゼン、ビターな味わいのヴァレンタイン・プレゼントだったかもしれませんね。
お膝元ミラノ(もちろん盛大な歓迎ぶり)、ローマ(“ポリーニ、ソロで帰還!”の紹介文)、フランクフルト(“鍵盤の巨人”との評)、ロンドン、バーデン・バーデンではいずれもショパンとリストのプログラム。
ロンドンの演奏をお聞きになった方からメールで、お元気でご機嫌の良いマエストロの様子を知らせていただきました。ありがとうございました! 演奏のご感想を、少し引用させていただきます。

(ショパンとリストのロマン派作品群は)「甘さを全く排したプログラムで、第一曲目の幻想曲の演奏からこのことは顕著でした。艶を抑えたような乾いた美しい音が響き、ショパン特有の怒れるような熱は曲の内芯軸に置きながら、ショパンの前衛性を前面に押し出したような演奏でした。続く二曲の夜想曲もまた甘さや優しさを極限まで抑えた演奏で、この後にやはり同じトーンで演奏された幻想ポロネーズまでは、恰も現代彫刻の連作を鑑賞しているような気さえしました。前半最後の曲であるスケルツォ第一番は、やはり同じく乾いた冷ややかな音ではあるのですが、少しだけ熱を表面に浮上させたような演奏で、また技術面では今回のショパンの作品群のなかでは一番パーフェクトなものであったと思いました。」

「リストの四曲の作品群は間を空けずに続けて演奏され、しかし一曲一曲に違う個性があり、でもお互いは離し様なく繋がっていて、そのリンクは寂寥感であるとか孤独であるだとか、ロマン派らしいテーマではあるのですがやはり甘さや感傷といったものを徹底的に排除したロマンティックであるという思いがしました。悲しみのゴンドラとR.W-ヴェネツィアの二曲に至っては、冬のベネツィアで見知らぬ人の葬儀のゴンドラを見送っているような気、さえしました。」

「マエストロは笑顔で拍手にお応えになり、最後の曲となりました。この非常な大曲を一時の休みもなく弾かれました。昨秋にベルリンでリストのダンテ交響曲を聴いた折にはその大曲さに驚いたのですが、このソナタはそれから仰々しさを外して洗練させたというだけで、大曲の風貌は同じだと思いました。ただダンテ交響曲が少し懐古趣味的なところがあったのに対して、(これはベルリン歌劇場楽団の気質にも拠ったのかもしれませんが)、このソナタは非常にモダンな大曲の趣でした。
前半のショパンの作品に較べると音に艶が加えられ、感傷ではない暗い情緒が現れ、一瞬ですが何故かふとシューベルトの最後のソナタの暗い不安の予感を思い出してしまいました。

演奏の終わりには目を閉じて鍵盤にもたれかかるようになさったマエストロは、立ち上がられると本当に晴れやかな満足そうなお顔で万雷の拍手と歓声に応えられました。」

甘さや感傷性を排したロマンティシズム、知的で現代的な、シャープな演奏だったのですね。マエストロがショパンの数ある曲の中からこれらの曲、前衛的、幻想的、また後期の作品を選んだ意味が判るような気がします。でも他の評には、後半のリスト作品の持つ現代性への強い思いからか、前半もその方向性の上にあり、ショパン作品の持ち味が生かされなかったのは残念だった、というような文もありました。
ともあれ、聴衆は大喝采で、3曲のアンコールはリスト“超絶技巧練習曲第10番”、ショパン“革命”そして「最後にはこの日唯一の穏やかな、美しく優しいショパンの子守唄」でした。

バーデン・バーデンでは4曲ものアンコール。リスト“超絶技巧練習曲第10番”、ショパン“革命”、“ノクターンop.27-2”、そして“スケルツォ第3番”。
ところが、この後、マエストロは体調を崩されたようで、18日のケルンの演奏会は中止、7月に延期になりました。早く恢復されることを、心より願っています。

3月号の「音楽の友」にサルヴァトーレ・シャリーノ氏のインタビュー(取材・文=沼野雄司)が載っていました。お読みになった方もいらっしゃると思いますが、ポリーニとパースペクティヴについて触れた部分をご紹介しておきます。

――では、ポリーニさんとの関係を教えてください。

「彼は実に変わった人ですよ(含み笑い)。にもかかわらず、もう40年近く前からの、本当に親しい友人です。そういえばミラノで私が交通事故にあった時(シャリーノの頭部には大きな傷跡がまだ残っている)、私は無意識のうちに、救急車の中で彼の家の電話番号を告げたようなのです。ポリーニ夫妻はあわてて病院まで駆けつけてくれて、その後、退院してからも彼の家でゆったりと療養させてくれました。喧嘩もよくするのですがね(笑)。

――11月の新作《謝肉祭》というタイトルはシューマンを思わせます。

 たしかに意識はしましたが、直接的な関係はありません。私の作品は歌が入っており、一種のマドリガルといった方がよいでしょう。テキストはニューギニアの詩人、中国の詩人による美学的なもので、本当は1時間ほどかかる曲なのですが、今回は抜粋で最後の3曲だけが演奏されます。ちょうどこの日には、ベートーヴェンの最後のソナタ3曲がカップリングで演奏されるようですから、バランスがいいのではないでしょうか。

――「ポリーニ・パースペクティヴ」について、どのようにお考えですか。

 私の見るところ、イタリアでは近年、新しい音楽に対する興味が低下しているのですが、こうした中でポリーニの試みは実に貴重なものです。曲を選ぶ観点も彼に独特のものがあり、やはり知性的な演奏家なのですね。このシリーズで私の作品が演奏されるのを楽しみにしています。

                   ♪

スケジュール表に新しい日程を加えました。マエストロは10月の来日の前に、10月17日に北京で演奏会を開かれるそうです。あるファンの方からお知らせいただきました(ありがとうございました)。
2013年の日程もまた幾つか。中でも注目は、ムーティ指揮のシカゴ響と共演する「皇帝」。素晴らしいでしょうね〜。

2012年 3月19日 20:35

ローマの宴
暦の上では春・・・とか、春は名のみの・・・とか、常套句のように思っていましたが、その言葉がひしひしと真実味をもって迫ってくる、この冬の寒さです。四半世紀ぶりの厳しい寒さに、北国では雪崩、吹雪、豪雪による交通のマヒ・・・多くの被害が齎されているようです。心よりお見舞い申し上げます。
都会では寒いとはいえ晴天が続き、太陽の暖かさをしみじみ有難く思うのですが、異常な乾燥のもとでインフルエンザは大流行。皆様、どうぞお気をつけてお過ごしください。

ヨーロッパでも異常な気候なのでしょうか、1月18日のローマもとても寒かったようです。
マエストロの70歳のバースデー・コンサートを聴きにいらした方からメールを頂きました。ありがとうございました! その日の様子を、少し引用させていただきながら記してみます。

ストの為タクシーも走っていないローマの街、けれどもサンタ・チェチーリアの大ホールは満席で、光と熱気に包まれて、とても華やいだ雰囲気だったそうです。ナポリターノ大統領夫妻をはじめ、ローマ市長、州知事などローマ中の政財界と音楽関係者が一堂に集まるという盛会だったのです。またこの音楽会の収益は癌研究の権威であるヴェロネーゼ博士の研究財団に寄付されるということで、博士も大統領と同席していました。

演奏会はロッシーニ“絹の梯子”序曲から。「華やかな愉し気な雰囲気はまるで今晩という宵のための序曲のようでした。」次はハイドンの“シンフォニア・コンチェルタンテ”、ヴァイオリン、チェロ、オーボエとバスーンのための協奏曲風な曲で、それぞれオーケストラのメンバーがソロを務める「良い感じ」の演奏。「オーボエとバッスーンとはまるでジャズセッションのような親密さがあり、ハイドンがモダン化されて、きっと舞台の袖のマエストロはお気に召していらっしゃるだろうなと思いました。」

休憩後はモーツァルト“ピアノ協奏曲第23番”。パッパーノと共に右手から現われたマエストロに大歓声が送られ、マエストロも自然で愉しげな表情でいらしたとのこと。
サンタ・チェチーリアの演奏は、「少しだけ早いテンポなのですが、ウィーンフィルの暗い甘味ともベルリンフィルの骨太で正確な美しさとも違う、豊穣」さを感じさせる演奏だったようです。 「マエストロのピアノは、天上の調べとはこういうものかと思ってしまいました。無垢で、あかるくて、のびのびしていて、でも官能的で急に影が差したり。そしてなによりも自然で正直なのでした。嘘がないのでした。
第一楽章は音も調べも艶々していて、デリケートながら軽やかに奏でられ、続く第二楽章は、蒼白いような冷たさと寂しさがなんともロマンティックで引き込まれるような甘さがあり、そして最終楽章は軽快とダイナミックとが混ざった素晴らしい演奏でした。」

大喝采が続き、アンコールに終楽章が再び演奏されました。「本プログラムで弾かれたときよりもかなりスピードを落とされて、その分ダイナミズムは控えめになったものの、のびのびとした晴朗さが益々増し」・・・優しさと愉しみに満ちていたようです。

割れんばかりのブラヴォーと拍手、「グラッツェ!」、お花が贈られた後、「パッパーノがピアノに座り、目を丸くされるマエストロに笑いかけた後「ハッピーバースデイ」をピアノで弾かれたのです。マエストロのこのときの笑顔といったら、本当にお誕生日に大きなプレゼントの箱を渡された子供のもののようでした。」

演奏会の後は、サンタ・チェチーリア主催でディナーがあり、大きなケーキが供され、華やかで愉しい宴だったようです。本当に素晴しい、幸せに満ちた一夜。
マエストロがお元気でご機嫌でハッピーでいられることは、ローマっ子だけでなく、ファンの皆の願いですね(*^^*)v

月末にはアムステルダムでやはり「70歳おめでとうリサイタル」が開かれました。詳細は判りませんが、ベートーヴェンとショパンのプログラムに、アンコールはショパンの3曲。やはり充実した演奏会だったのでしょう。

スケジュール変更のお知らせです。ルツェルンの8月13日は、12日に変更となりました。プログラムも発表され、ベートーヴェンのソナタの他は、弦楽四重奏曲が奏されます。あるファンの方から、お知らせいただきました。ありがとうございました!
ケルン、ミラノのプログラムを追加しました。

私事ながら、1〜2月はモーレツに忙しく、またパソコンやインターネット環境の変化もあり、更新の遅れは勿論のこと(涙)、情報収集の不足、ゲストブックやメールでもご連絡に遅れがあるかもしれません。どうぞお赦しくださいませ。

2012年 2月6日 17:25

龍の年
お健やかに新年をお迎えのことと存じます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。
北の地方では雪も多く寒さ厳しい元旦だったと思いますが、東京では静かな穏やかなお正月を過ごすことが出来ました。いつものように平穏な年明け・・・去年もそんな風に迎えた年でしたが、三月の未曾有の災害が日本を一変させてしまったのでした。人間の依って立つ基盤というものの不確かさ、その上に如何に生きて行くのか・・・。自然の脅威と文明の脆さ、社会の有り様と政治や経済の方向性、いろんな問題が混沌としたままに虚しく過ぎた時間。新しい年もその延長上にあり、難題は山積したままですが、ただ、被災から“復興”へと進む中で、より良い方向が見い出される、生み出されるのかもしれない、と思います。新しい時間、未来が明るくなることを願い、多くの力が実を結ぶことを願って、一日一日を丁寧に過ごし、心を寄せて行くことで、無力な私も何かが出来れば、と思います。

「皆さんは竜を見たことがありますか? 竜は私たちみんなの心の中に存在し、『経験』を食べて成長します。だから私たちは年をとって経験を積むほど強くなるのです」
昨秋ブータン国王ご夫妻が日本を訪れ、被災地の人々を励まされました。穏やかな中に勁さ(志操の高さ・強さ)を湛えた国王の言葉は、多くの人の心を打ちました。今年はまさに龍の年。年男年女でなくても、皆の心の中に棲むという龍を、逞しく育てて行きたいものです。

さて、本日は1月5日。ブラームスの新譜を聴きながら、龍の姿を脳裏に浮かべています。マエストロ・ポリーニの心の内なる龍、「神龍」とも思えるその姿は、なんと大きく、強く、そして美しいことか!(西洋文化では竜=ドラゴン=サタン。決して良いイメージではないのかもしれないけれど、ここは一つ、日本風・東洋流でいきましょう)。

さあ、イタリアの空に向って、心からの声を送りましょう!

Buon Compleanno!
マエストロ・ポリーニ、70歳のお誕生日おめでとうございます!
お元気で、幸福な一年をお過ごしください。
素晴しいご活躍を、お祈りいたします!

今では70歳は“お達者”“まだまだ元気一杯!”と思われますが、本来「古稀」=昔から稀だ、といわれた年齢。昔の古稀を迎えた人は内面的にも年長者の知恵や風格を持っていたのでしょう。ポリーニはもう以前からMaestro=巨匠であり、実力は勿論、知恵も風格も、大きな貫禄も備えておられますが、古来稀なりの音楽の資質は、いよいよ光を増しているようです。
昨年からルツェルンで始まった“Perspective Pollini”も今年の夏の2回の演奏会で完結。現代の最前線で創造に関わるポリーニ。“作曲家”が何よりも大切です、自分は演奏するだけ・・・と彼自身はいつも謙虚な姿勢ですが、その存在の大きさは計り知れないものがあります。そして新作の演奏に取り組むには、どんなに体力・知力・精神力の強さが要ることでしょう。いつまでもお元気で、演奏活動を、活躍を、続けて欲しい・・・心からのファンの願いです。
秋には日本で4回の“Perspectives”を続けて披露するという、私達日本のファンにとってはこの上なく嬉しい計画が組まれています。ベートーヴェンの中・後期ソナタを連続して聴けるのも嬉しいけれど、ポリーニが委嘱した新作を、彼自身の手から聴くのも、本当に楽しみなことです。

70年の歳月、60年近くになる演奏の歴史。そして40年になるDGとのレコーディングの契約。DGではこの長い絆に感謝しつつ、70歳を記念する新譜をリリースしています。まずポリーニ自身が選んだ3枚組 "The Art of Maurizio Pollini"。ショパンの全録音を纏めた9枚組"CHOPIN"。現代作品の全録音を纏めた6枚組"20th Century"。総集編として第1弾・第2弾とされていますが、第3弾、第4弾も期待したいところですね。
そして最近になって、また新たなCDの出現が予告されました。ショパン:24のプレリュード、マズルカ、夜想曲、スケルツォ・・・これは、一体なに?
今日、ドイツのJanさん(Thank you!)がメールで知らせてくれた文に、「DGとポリーニはショパンの作品の新録音を考えている。今年、もっと後にリリースされる・・・」とありました。では、新録音なのですね!! 作品年代の近い曲たち? ポリーニの十八番の曲たち? ウ〜〜ン、楽しみですね〜。

  今回の更新はバイオグラフィーに追記し、既発売の3点をディスコグラフィに載せました。(ショパンの組はショパンのページに載せるべきかもしれませんが、70歳記念の一つとして、6ページのOmnibusの方に入れました)

2012年 1月5日 15:35

Topへ