陽ざしは明るくなり、紅梅・白梅が咲き競い、芳香を漂わせています。沈丁花も香りを放ち、風はまだまだ冷たいけれど、春はもうすぐ・・・? 春分の日を迎えるというのに、あまりにもヘンな文です。今年は冬から春へのあゆみが本当に遅いようで、ひと月はオーバーとしても、半月は遅れているかしら・・・? でも、桜の開花予想は平年より2、3日遅れとのこと。イッキに春がやって来るのかもしれませんね。
けれど、遅れているといえば、この日(月)記帳の方がもっともっと。ヴァレンタインデーのチョコもとっくに賞味期限切れ・・・m(_ _;)m お恥ずかしい限りです。今年になってからバタバタと忙しさが続いて、パソコンやその環境の変化にも四苦八苦の日々でした。やっと少しは落ち着いたかなぁ、と思えば、もう3月も下旬。気が付けば「ポリーニ・パースペクティヴ2012」のチケット発売も“4月1日”と、目前に迫っているのでした。嗚呼、頑張らなくっちゃ・・・!
2月、3月のマエストロの公演は、各都市で「70歳おめでとう!」の歓声につつまれて行われたようです。
パリで2月14日に行われたリサイタルには“Saint Maurizio”と題する評(内容は読めませんでした(- -;)。この日のプログラムはベートーヴェンとシュトックハウゼン、ビターな味わいのヴァレンタイン・プレゼントだったかもしれませんね。
お膝元ミラノ(もちろん盛大な歓迎ぶり)、ローマ(“ポリーニ、ソロで帰還!”の紹介文)、フランクフルト(“鍵盤の巨人”との評)、ロンドン、バーデン・バーデンではいずれもショパンとリストのプログラム。
ロンドンの演奏をお聞きになった方からメールで、お元気でご機嫌の良いマエストロの様子を知らせていただきました。ありがとうございました! 演奏のご感想を、少し引用させていただきます。
(ショパンとリストのロマン派作品群は)「甘さを全く排したプログラムで、第一曲目の幻想曲の演奏からこのことは顕著でした。艶を抑えたような乾いた美しい音が響き、ショパン特有の怒れるような熱は曲の内芯軸に置きながら、ショパンの前衛性を前面に押し出したような演奏でした。続く二曲の夜想曲もまた甘さや優しさを極限まで抑えた演奏で、この後にやはり同じトーンで演奏された幻想ポロネーズまでは、恰も現代彫刻の連作を鑑賞しているような気さえしました。前半最後の曲であるスケルツォ第一番は、やはり同じく乾いた冷ややかな音ではあるのですが、少しだけ熱を表面に浮上させたような演奏で、また技術面では今回のショパンの作品群のなかでは一番パーフェクトなものであったと思いました。」
「リストの四曲の作品群は間を空けずに続けて演奏され、しかし一曲一曲に違う個性があり、でもお互いは離し様なく繋がっていて、そのリンクは寂寥感であるとか孤独であるだとか、ロマン派らしいテーマではあるのですがやはり甘さや感傷といったものを徹底的に排除したロマンティックであるという思いがしました。悲しみのゴンドラとR.W-ヴェネツィアの二曲に至っては、冬のベネツィアで見知らぬ人の葬儀のゴンドラを見送っているような気、さえしました。」
「マエストロは笑顔で拍手にお応えになり、最後の曲となりました。この非常な大曲を一時の休みもなく弾かれました。昨秋にベルリンでリストのダンテ交響曲を聴いた折にはその大曲さに驚いたのですが、このソナタはそれから仰々しさを外して洗練させたというだけで、大曲の風貌は同じだと思いました。ただダンテ交響曲が少し懐古趣味的なところがあったのに対して、(これはベルリン歌劇場楽団の気質にも拠ったのかもしれませんが)、このソナタは非常にモダンな大曲の趣でした。
前半のショパンの作品に較べると音に艶が加えられ、感傷ではない暗い情緒が現れ、一瞬ですが何故かふとシューベルトの最後のソナタの暗い不安の予感を思い出してしまいました。
演奏の終わりには目を閉じて鍵盤にもたれかかるようになさったマエストロは、立ち上がられると本当に晴れやかな満足そうなお顔で万雷の拍手と歓声に応えられました。」
甘さや感傷性を排したロマンティシズム、知的で現代的な、シャープな演奏だったのですね。マエストロがショパンの数ある曲の中からこれらの曲、前衛的、幻想的、また後期の作品を選んだ意味が判るような気がします。でも他の評には、後半のリスト作品の持つ現代性への強い思いからか、前半もその方向性の上にあり、ショパン作品の持ち味が生かされなかったのは残念だった、というような文もありました。
ともあれ、聴衆は大喝采で、3曲のアンコールはリスト“超絶技巧練習曲第10番”、ショパン“革命”そして「最後にはこの日唯一の穏やかな、美しく優しいショパンの子守唄」でした。
バーデン・バーデンでは4曲ものアンコール。リスト“超絶技巧練習曲第10番”、ショパン“革命”、“ノクターンop.27-2”、そして“スケルツォ第3番”。
ところが、この後、マエストロは体調を崩されたようで、18日のケルンの演奏会は中止、7月に延期になりました。早く恢復されることを、心より願っています。
3月号の「音楽の友」にサルヴァトーレ・シャリーノ氏のインタビュー(取材・文=沼野雄司)が載っていました。お読みになった方もいらっしゃると思いますが、ポリーニとパースペクティヴについて触れた部分をご紹介しておきます。
――では、ポリーニさんとの関係を教えてください。
「彼は実に変わった人ですよ(含み笑い)。にもかかわらず、もう40年近く前からの、本当に親しい友人です。そういえばミラノで私が交通事故にあった時(シャリーノの頭部には大きな傷跡がまだ残っている)、私は無意識のうちに、救急車の中で彼の家の電話番号を告げたようなのです。ポリーニ夫妻はあわてて病院まで駆けつけてくれて、その後、退院してからも彼の家でゆったりと療養させてくれました。喧嘩もよくするのですがね(笑)。
――11月の新作《謝肉祭》というタイトルはシューマンを思わせます。
たしかに意識はしましたが、直接的な関係はありません。私の作品は歌が入っており、一種のマドリガルといった方がよいでしょう。テキストはニューギニアの詩人、中国の詩人による美学的なもので、本当は1時間ほどかかる曲なのですが、今回は抜粋で最後の3曲だけが演奏されます。ちょうどこの日には、ベートーヴェンの最後のソナタ3曲がカップリングで演奏されるようですから、バランスがいいのではないでしょうか。
――「ポリーニ・パースペクティヴ」について、どのようにお考えですか。
私の見るところ、イタリアでは近年、新しい音楽に対する興味が低下しているのですが、こうした中でポリーニの試みは実に貴重なものです。曲を選ぶ観点も彼に独特のものがあり、やはり知性的な演奏家なのですね。このシリーズで私の作品が演奏されるのを楽しみにしています。
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スケジュール表に新しい日程を加えました。マエストロは10月の来日の前に、10月17日に北京で演奏会を開かれるそうです。あるファンの方からお知らせいただきました(ありがとうございました)。
2013年の日程もまた幾つか。中でも注目は、ムーティ指揮のシカゴ響と共演する「皇帝」。素晴らしいでしょうね〜。