時々の雑記帳

音楽のこと、ポリーニのこと、日々の雑感を、
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(10月〜12月)

春待月
おそく始まった今年の紅葉・黄葉は、秋の景色を長く楽しませてくれました。近頃はいよいよ葉も落ちて、枯葉と冬木立の町に。寒さも本格的になり、まさに季節は冬。初雪や初霜、初氷の報に接して季節の移ろいを思った頃は、まだまだ秋のさ中だった・・・と思わされます。
「師」(お坊様のことです)でもないのに、何をアクセクするの・・・と思いつつ、やっぱり急ぎ足で動き回る日々、気がつけば師走も大分過ぎました。モーツァルトの命日(5日)を過ぎ、いつも気に掛かる「11日」という日を過ぎ、ベートーヴェンの誕生日(16日)も過ぎると・・・アラ、もう下旬ですね。天皇誕生日とクリスマスをセットで(?)祝い、買物、料理、大掃除などして、大晦日を迎える・・・。なんて早い時の流れ! そして、なんという一年だったことか!!
あの日「3月11日」から、全てが変わってしまったような、気がします。そしてパンドラの箱が開けられたような、政治経済社会の混乱、不信、不審、多くの問題、解決できない難題。その後も台風、洪水に襲われた日本。世界規模でも異常な水害が数多く襲い、天変地異を思わせる地球でした。そして世界の経済の混乱と破綻、今伝わってきた北朝鮮の変事。何か大きく世界が変って行くような・・・。

12月は別名「春待月」とも言うそうです。「初春」を前にした呼び方なのでしょう。暖かさと明るさのあるこの名を口にうかべ、少し長閑な気分になりたいものです。そして新たな年が穏やかな、明るい、希望に満ちた一年になりますように!と、祈らずにはいられません。

マエストロは11月後半にミュンヘンとルツェルンでリサイタルを行い、今年の活動を終えられました。ミュンヘンの演奏会にはpositivな評があったとJanさんからメールがあり、アンコールはリストの超絶技巧練習曲(2番目もあったようですが不明です)。ルツェルンの方はフランス語の評がありましたが、読めず(泣)、でも“titan”(巨人)という言葉から、きっと素晴しい音楽を奏されたのでしょう。アンコールはリストの超絶練習曲10番とショパンの練習曲op10-4。
今月は自由な時間を楽しまれ、ゆっくり休養されているのでしょうか。それともcapodannoに続き70歳のcompleannoを迎えるにあたって、忙しく過ごされているのでしょうか。お元気で佳き日をむかえられるよう、祈るばかりです。

ポリーニの来年のアメリカ・ツアーのプログラムが判りました。ショパンとリスト、それからベートーヴェン。フィラデルフィアではショパンの協奏曲も演奏、充実した素晴しい春のツアーとなるでしょう。
また、来春のベルリンではPerspectives Polliniが行われます。プロモーターは“Staatsoper Unter den Linde im Schiller Theater”で、Festtage 2012の一環として行われますが、会場はPhilharmonieでした。スケジュール表に追記、訂正しました。

この一年、このホームページを訪れていただき、ありがとうございました。様々なことが起きた年、心が騒ぎ、落ち着かず、また諸々の雑事に追われて、更新もままならぬ状態でした。メールやゲストブックに寄せられたご意見やご感想に励まされ、このページを訪れる方のいらっしゃることを心の支えに、過ごして参りました。
来年はどんな年になるでしょう・・・。ポリーニを迎える年(*^^*)ですもの、きっと素晴しい年になりますね。
皆様、どうぞお元気で、良いお年をお迎えください。

2011年 12月19日 20:40

Old or New Testament?
11月も半ば、暦の上ではもう冬、各地から初雪の報も伝えられます。東京も急に寒くなったけれど、時折訪れる“小春日和”は、心身を温めて幸せな気持にしてくれます。
我が家付近の木々も次第に秋の色に染まり、ハナミズキの濃い紅の葉、ヤマボウシの赤い葉と丸い実が、渋みを増した緑の中に暖かい色を灯しています。桜は黄や赤の葉が入り交じり、落ち葉が散り敷いて地を色づかせている様も優しげな風情で、美しい秋の景色です。日一日と装いを変えながら、深まる秋はゆっくりと目を楽しませてくれます。
先月末には日光に紅葉を見に行きました。いろは坂の木々の織りなす色彩のパノラマを楽しみ、雄大な滝からマイナスイオンを浴びて、湖水を渡る風に深まりゆく秋を身をもって感じ・・・ているうちに、風邪を引いてしまいました(^^;)。幸い大したことなく治りましたが、新譜を買いにCD店へ、Go!との計画は延びてしまいました。
これからは風邪やインフルエンザが猛威をふるう時期、皆様もどうぞお気をつけ下さい。

インフルエンザといえば、マエストロはこのために10月の2つの演奏会をキャンセルされました。バーデン・バーデンとフランクフルトです。といっても3月に新たな日程が組み入れられ、チケットもそのまま使えるそうです。曲目は当初は予定通りでしたが、最近になって前半のベートーヴェンがショパンへと変更されました(後半はリストです)。
ドイツのJanさんからの情報でしたが、彼は11月14日のベルリンの演奏会に行き、早速メールで感想を送ってくれました(Thank you again, Jan!)。曲目はショパンの幻想曲から始まりリストのソナタで終る、今後各都市で披露されるプログラムです。
「久しぶりのリサイタルだったからでしょうか、少し不安定な瞬間・箇所がありました。でも、終始美しいポリーニの音色で、特にノクターンが美しかったです。結局は素晴しい演奏会であり、聴衆もよく聴いていて、スタンディングオベーションを送りました。(アンコールはスケルツォ3番と子守唄)」

'flu'から快復されて、演奏会を再開なさったのですね、ホッとしました(^^)v
今年はあと2回のリサイタルのみ、ミュンヘンとルツェルン(寒そう・・・)のピアノ・フェスティヴァルです。お元気で過ごされて、12月のフリーな日々を楽しんでいただきたいですね。

さて、新譜が発売されて2週間ほど、もうお聴きになった方も多いことでしょう。ゲストブックにも感想が寄せられていますが、皆様はどのようにお聴きになったでしょうか。
ポリーニが3回目に録音したブラームスの1番。落ち着いて、ジックリと味わいたいものです。かたや18歳のポリーニ少年の弾くショパンのエチュード。これはまた、新鮮な気分で、集中して聴き進めたい・・・などと思っていると、なかなかしっかりと聴く時間、機会がありませんでした。

今、ブラームスを聴いています。ドレスデン管による導入部は最初ややソフトでメリハリが薄い(?)・・・ように思ったのですが、ピアノが入り、こちらも少し控えめ(?)と思っているうちに、次第に強まり、高まっていくと、オーケストラも生気を帯びて呼応していく、そのピアノのリードが、やはりポリーニならでは!ですね。オケの深みある音に支えられてピアノの透明感ある音が美しく鮮やかに、ロマンティックな曲想が胸に響きます。この曲に込められた、若いブラームスの逡巡や憧憬や情熱が、壮大な音楽となって解き放たれる、その解き放つ手の老練さ、表現する心の熱さ、雄大な音楽を生み出す精神の深さに、ポリーニの存在の大きさを感じずにはいられません。深まる秋に、繰り返し聴いて馴染んで行きたいと思っています。

ショパンの練習曲・・・このCDがなぜ、今、リリースされるのかしら? それよりなぜ、当時、リリースされなかったのかしら?
聴けばその美しさに心を奪われ、完璧さ(技巧のみでなく、音楽の完成度も)に言葉を失う、これはそんな衝撃的な録音だと思います。

先日ドイツのあるサイトで“Archivschatz”という題の、このCDを紹介する文(Wolfram Goertz氏)を読み、少し疑問が解けました。
最初の疑問は「50年の著作権保護期間が終了し、ポリーニもDGもこれが市場に出る事を阻止できない」で解決です(なぜTESTAMENTから出たのかは不明ですが)。DGとしてはリリースさせたくないかもしれないけれど、これは本当に"Archivschatz"(Schatz=財宝、埋蔵品)、掘り出されなければならない!!ものと思います。「正当に、ショパン・ファンは、この早熟の天才ポリーニの演奏を所有すべきだ、そうしなければならない。」とサイトの文も結んでいます。
次の疑問については。
「録音後聴いてみて、彼はzu kuehn(大胆な、思い切った)、zu hitzig(熱い、激した)、zu schnell(早い、性急な)、zu ueberwaeltigend(圧倒的な、強烈な)と思った」(zu=too)「それで奇矯にも世に出すことを望まなかった、そしてショパンのスペシャリストとしての印を押される事を望まなかった」とありました。

CDに添えられたブックレットの文には、「奥深いアコースティックな響きが魅力のアビーロードの第3スタジオで録音されたEMI盤は、ピアノ本来の透明感のある響きで、若き天才ポリーニの繊細で作品と共鳴するかのような激情を聴くことができる。」とありますが、本当にショパンとポリーニの魂が響き合うような、ショパンそのものと思いたくなるような演奏です。
おそらくEMIでは、ショパン・コンクール優勝の18歳の少年を、「ショパン弾き」として華々しく売り出そうとしていたのでしょう。プロモーターとしては当然なのかもしれません。
でも、ポリーニは・・・。すぐに世に出て行くべきだろうか、もう少し修業すべきではないだろうか、もっと色々な事を学びたい、ショパンだけでなく他の作曲家の作品も弾きたい・・・。おそらく急に慌しく周囲が動き始めたその渦の中で、怖れ、また畏れを抱き、希望を胸にし、逡巡していたかもしれません。そこへ録音した練習曲の「完璧なるショパン」。18歳の彼自身が顕になったような録音。「天性のショパン弾き」との印を押されるのは必至だったでしょう。その後の演奏会でもショパンばかりを所望されて・・・。それを避けるための、勇気ある、いえ、勇気の要る、決断だったのではないでしょうか。

ブックレットには続けて「これに対し、10年以上後に録音されたDG盤では、より円熟したポリーニの堂々とした雄大さのある演奏が、リバーブが多いスタジオで録音されている。このふたつの録音は、まったくもって対照的と言える。」とあります。(Tony Locantro氏文、小林茂樹氏訳)
(このブックレットはEMIサイドの視点で書かれているようで、「?」と思う所もありますが、この文については納得できるものでした。)

今ここに、ポリーニの二つのショパン「練習曲」を聴けることは、本当に幸せなことだと思います。
マエストロ、ありがとうございます。

2011年 11月16日 16:40

爽やかな香り
今年の秋は残暑やら大型台風の襲来やら、あるいは一気に晩秋の気温になって震えさせられたり・・・。でも、10月初旬に金木犀が香るようになって、空も雲も秋らしくなってきました。今年は金木犀の当たり年(?)でしょうか、花期が長く香りも強いような気がします。心を落ち着かせ、リフレッシュし、少し豊かな気分にしてくれる小さな花。空に向って深呼吸できる幸せを、思います。木々も少しずつ落ち着いた秋の色になり、紅葉・黄葉の美しい季節に向って静かに歩を進めているようです。

マエストロの9月からの新シーズンの活動は、まずベルリンから。バレンボイムがシェフを務めるシュターツ・カペレ・ベルリンとの共演でした。まずモーツァルト、次にノーノの曲が演奏されました。
聴きにいらした方からのお便り(ありがとうございました)では、マエストロはとてもお元気そうで、クリアで美しいモーツァルトの演奏だったけれど、シュターツ・カペレの音楽は「非常にトラディショナルというか、悪く言うと頑固な職人気質な音楽を紡ぐよう」な感じで、ポリーニの新しいもの、オリジナルなものを常に追求する姿勢とは、異なる点もあったようです。他の評にも、(オケは)ビブラートが多く重くて、モーツァルトの音楽にある陽気さや自発性が損われていた、と。しかしポリーニのピアノは美しく、走句やトリルなどが軽やかに奏されて、子供が戯れているかのようだった、とも書かれていました。

続いてノーノ"...sofferte onde serene..."では、マエストロはメガネをかけて譜面に目を注いでの演奏で、「美しい、気高く厳しいのにどこか甘ささえ感じられる素晴らしい演奏」だったとのこと。演奏の後、舞台の袖で出迎えたバレンボイムが大笑いしながら背中をたたき、マエストロも大いに笑顔で応えられ・・・そんな姿も垣間見られ、同い年の二人の仲の好さも印象深かったようです。
“他の評”者はバレンボイムは“傲慢さ”と“茶目っ気”を併せ持っていて、この一風変ったプログラムもその資質によって実現したのだろうと、見ています。
そうそう、余談ながら“他の評”者がフィルハーモニーの楽屋口に来ると、燕尾服姿のポリーニを囲んで煙草をふかしながら談笑している人達がいた、とありました(この場に加われるなら、吸ったことのない煙草に火を点けたって良いなぁ、と)。
「禁煙」は・・・ケムリと消えたようですねぇ。

10月に入り、パリではプロジェクトの第1回目が催されました。聴きにいらした方のメール(ありがとうございました)を、少し紹介させていただきます。

まず、マンツォーニの“Il rumore del tempo”は
「ヴィオラ、クラリネット、パーカッションともに素晴らしい演奏でしたが、圧倒的であったのはロシア語、ドイツ語そして少しのイタリア語の混じった歌詞を歌うソプラノのアンナ・プロハスカでした。古典的な美人とは言えないのですがえもいわれないロマンティックな容姿、金属的な美しい声、感情のコントロールの巧みさなど、春のベルリンでのベルクおよびモーツァルトの歌唱からまた一段と成長なさったように思えました。」

(グレーのスーツに黄色のネクタイで登場された)「マエストロは他のパートの折もじっと楽譜を追っておられ、御自分の演奏では美しく力強くそして繊細な素晴らしい音を聞かせてくださいました。途中では立ち上がってピアノの内部に手を入れられて、弦をピッチカートの様に演奏される場面があり、このような演奏というのは、マエストロのような巨匠がなさってからこそ信頼や信用が生まれるのだろうと思いました。また曲の最後には、マエストロが広げられた右手を震わせながらゆっくりと、しかし高々と挙げられ、それはマエストロがこのアンサンブルの統率者であること、また彼の思い入れの大きさ、を見せたジェスチュアでした。

しかしマエストロは演奏終了後はすぐに客席のマンツォーニの姿を探されると手招きをして舞台に招待なされ、御自分は決して前に出られずに、プロハスカとマンツォーニの引き立て役に終始なさっていらっしゃいました。マンツォーニはプロハスカの歌唱に非常に満足なさっていたご様子でした。」

後半のベートーヴェンのソナタは
「初めの二曲は速いテンポで、ミスタッチは耳には届きましたが濁らない音が美しく、マエストロはショパンには重さと暗さを与えられるのと対照的に、ベートーヴェンには哀しさと儚さを与えようとされているかのような演奏でした。

最後のアパッショナータは、これもテンポは速めでミスタッチもあったようですが、やはりいつものマエストロのアパッショナータで、『激情』ということばしか頭に浮かばない『熱情』でした。」

「数度舞台に戻られ、半数ほどのスタンディング・オベーションをにこやかに受けていられました。ブラボーが連呼され、反応は良いものでした。」

ルツェルンを離れて最初のプロジェクト、パリでもまずは成功裡に終ったようですね。世界の各都市を経て、来年10月には日本でも4回まとめて披露される予定ですが、一年は長いですねぇ・・・待ち遠しいです。

今回は更新も殆んど無いのですが、来秋のウィーンの日付を見つけたので、スケジュール表にのせました。また、新譜の情報も付け加えました。

2011年 10月13日 17:20

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