今年の秋は残暑やら大型台風の襲来やら、あるいは一気に晩秋の気温になって震えさせられたり・・・。でも、10月初旬に金木犀が香るようになって、空も雲も秋らしくなってきました。今年は金木犀の当たり年(?)でしょうか、花期が長く香りも強いような気がします。心を落ち着かせ、リフレッシュし、少し豊かな気分にしてくれる小さな花。空に向って深呼吸できる幸せを、思います。木々も少しずつ落ち着いた秋の色になり、紅葉・黄葉の美しい季節に向って静かに歩を進めているようです。
マエストロの9月からの新シーズンの活動は、まずベルリンから。バレンボイムがシェフを務めるシュターツ・カペレ・ベルリンとの共演でした。まずモーツァルト、次にノーノの曲が演奏されました。
聴きにいらした方からのお便り(ありがとうございました)では、マエストロはとてもお元気そうで、クリアで美しいモーツァルトの演奏だったけれど、シュターツ・カペレの音楽は「非常にトラディショナルというか、悪く言うと頑固な職人気質な音楽を紡ぐよう」な感じで、ポリーニの新しいもの、オリジナルなものを常に追求する姿勢とは、異なる点もあったようです。他の評にも、(オケは)ビブラートが多く重くて、モーツァルトの音楽にある陽気さや自発性が損われていた、と。しかしポリーニのピアノは美しく、走句やトリルなどが軽やかに奏されて、子供が戯れているかのようだった、とも書かれていました。
続いてノーノ"...sofferte onde serene..."では、マエストロはメガネをかけて譜面に目を注いでの演奏で、「美しい、気高く厳しいのにどこか甘ささえ感じられる素晴らしい演奏」だったとのこと。演奏の後、舞台の袖で出迎えたバレンボイムが大笑いしながら背中をたたき、マエストロも大いに笑顔で応えられ・・・そんな姿も垣間見られ、同い年の二人の仲の好さも印象深かったようです。
“他の評”者はバレンボイムは“傲慢さ”と“茶目っ気”を併せ持っていて、この一風変ったプログラムもその資質によって実現したのだろうと、見ています。
そうそう、余談ながら“他の評”者がフィルハーモニーの楽屋口に来ると、燕尾服姿のポリーニを囲んで煙草をふかしながら談笑している人達がいた、とありました(この場に加われるなら、吸ったことのない煙草に火を点けたって良いなぁ、と)。
「禁煙」は・・・ケムリと消えたようですねぇ。
10月に入り、パリではプロジェクトの第1回目が催されました。聴きにいらした方のメール(ありがとうございました)を、少し紹介させていただきます。
まず、マンツォーニの“Il rumore del tempo”は
「ヴィオラ、クラリネット、パーカッションともに素晴らしい演奏でしたが、圧倒的であったのはロシア語、ドイツ語そして少しのイタリア語の混じった歌詞を歌うソプラノのアンナ・プロハスカでした。古典的な美人とは言えないのですがえもいわれないロマンティックな容姿、金属的な美しい声、感情のコントロールの巧みさなど、春のベルリンでのベルクおよびモーツァルトの歌唱からまた一段と成長なさったように思えました。」
(グレーのスーツに黄色のネクタイで登場された)「マエストロは他のパートの折もじっと楽譜を追っておられ、御自分の演奏では美しく力強くそして繊細な素晴らしい音を聞かせてくださいました。途中では立ち上がってピアノの内部に手を入れられて、弦をピッチカートの様に演奏される場面があり、このような演奏というのは、マエストロのような巨匠がなさってからこそ信頼や信用が生まれるのだろうと思いました。また曲の最後には、マエストロが広げられた右手を震わせながらゆっくりと、しかし高々と挙げられ、それはマエストロがこのアンサンブルの統率者であること、また彼の思い入れの大きさ、を見せたジェスチュアでした。
しかしマエストロは演奏終了後はすぐに客席のマンツォーニの姿を探されると手招きをして舞台に招待なされ、御自分は決して前に出られずに、プロハスカとマンツォーニの引き立て役に終始なさっていらっしゃいました。マンツォーニはプロハスカの歌唱に非常に満足なさっていたご様子でした。」
後半のベートーヴェンのソナタは
「初めの二曲は速いテンポで、ミスタッチは耳には届きましたが濁らない音が美しく、マエストロはショパンには重さと暗さを与えられるのと対照的に、ベートーヴェンには哀しさと儚さを与えようとされているかのような演奏でした。
最後のアパッショナータは、これもテンポは速めでミスタッチもあったようですが、やはりいつものマエストロのアパッショナータで、『激情』ということばしか頭に浮かばない『熱情』でした。」
「数度舞台に戻られ、半数ほどのスタンディング・オベーションをにこやかに受けていられました。ブラボーが連呼され、反応は良いものでした。」
ルツェルンを離れて最初のプロジェクト、パリでもまずは成功裡に終ったようですね。世界の各都市を経て、来年10月には日本でも4回まとめて披露される予定ですが、一年は長いですねぇ・・・待ち遠しいです。
今回は更新も殆んど無いのですが、来秋のウィーンの日付を見つけたので、スケジュール表にのせました。また、新譜の情報も付け加えました。