15時からのポリーニ世界文化賞受賞記念講演会。チケット引き換えの列は、既に14時前から長くなっていました。会場には4つの椅子と、隅には蓋を開けたピアノ。音が聞けるのでしょうか??
初めに司会の諸石幸生先生から、マエストロの希望で会場からの質問を受けて話を進めて行きたいとの提案。まず3つの質問が寄せられました。
今日のマエストロはラフにノーネクタイ。藤倉大さん、通訳の井上由香子さんと一緒に、にこやかに登場されました。
第1の質問は、昨晩のリサイタルで3人の作曲家を選んだことの意味は?
ショパンは作曲家として先立つ者も後に続く者もない、唯一無二の存在です。しかし彼が開いた新しい音の世界はフランス近代の作曲家ドビュッシーやラヴェルに大きな影響を与えました。事実ドビュッシーはショパンを尊敬し、練習曲を献呈しています。
ドビュッシーの後期の作品は新ウィーン楽派にも影響を与え、ブーレーズへと流れは続き、彼は23歳でこのソナタを書き、また新しい世界を開いたのです。現代音楽を聴く上でとても重要な作品で、演奏会の最後に弾くのに相応しい曲と思います。
第2の質問は、若手の音楽家の指導について。
私について言えば、ルツェルンやシエナでマスタークラスを開いたことがあります。
音楽教育はバッハやモーツァルトのクラシカルな音楽ばかりでなく、同時に現代の作品を取り入れると良いと思います。例えば、バルトークの「ミクロコスモス」など小作品で、現代の音楽言語をより身近にすることが必要だと思います。
第3の質問は、昨夜のプログラムとアンコールについて。アンコールでドビュッシーからショパンへと続き、丁度ブーレーズを中心に円環のようになりましたが、アンコール曲はどのように決めるのですか、前から考えているのですか?
その場で自由に曲を選びます。流れが良いようにと思います。昨夜のバラード第1番はとっさに決めて弾きました。長いこと弾いていなかったし、練習もしていなかったのですが。
(あの素晴らしい演奏が、とっさに思いついて・・・?と、驚きと興奮が沸き起こったような会場の空気^^)
次に藤倉氏から、ブーレーズさんから預かった質問として「第2ソナタをどうやって発見したのか。第一印象は?」
楽譜はごく普通に楽譜屋で入手しました。ごく自然に興味を持ったからです。最初の印象は・・・覚えていませんね(笑)。'68年にトリノで初めて演奏し、毎日5ページずつ暗譜しました。(本当に暗譜できるのですね〜、と諸石氏)。
随分長いこと演奏していると自分でも驚いていますが、生涯弾いていくだろうと予感しています。とても内容の濃い作品で、反復がなく、自由なバリエーションが広がり、ページごとに宝の山のように思われます。演奏は難しく、1回では伝えきれないし、聴衆も理解しきれないと思うので、一つの都市で繰り返し演奏することで、真価を伝えたいと思います。時間と共に定番化していけば良いと思います。
ノーノやシャリーノがポリーニのために作品を書いているが、どのように作曲を進めるのか、相談したりするのですか、との問いに。
ノーノとは一緒に作業し、テープの音源を作りました。作曲家が実験的な音の処理をして、コラボレーションの結果のスコアを渡されました。
シャリーノやマンゾーニの場合は通常のスコアを手渡されました。
また会場からの質問を受けます。
どの様に(どういう基準で)レパートリーとなる作品を選ぶのですか?
ピアノで弾いていて、疲れる曲、飽きる曲は嫌いです。ただコンサートのために練習するのではなく、伝えたいものを感じる作品を選びます。
チャイコフスキーやラフマニノフは弾かないのですか?
良い曲だと思いますが、私よりもっと素晴らしく演奏する人が世界中に沢山います。しっかり現代の音楽シーンに根付いている作品だと思います。
シュトックハウゼンの作品を録音していただきたいのですが?
とても素晴らしいアイディアですね(笑)。
若い頃から現代作品を聴いていたのですか?
「ヴォツェック」(ベルク)を聴いてから、新ウィーン楽派など現代の作品に興味を持ちました。
建築や美術など、他の芸術から霊感を受けることはありますか?
音楽的に霊感を受けることはありません。でも、作曲家は音楽以外の世界の様々なものから霊感を受けたと思います。例えばベートーヴェンは自分の作品すべてに題名を与えたいと思っていたと、弟子のシンドラーの本にあります。彼が反対するとベートーヴェンは怒り出し、「それじゃあ、怒りのソナタを書けば良いでしょう!」とシンドラーは言い返した、と。まあ、シンドラー自身が書いた本だから、あまり当てにはできないけれどね(笑)。
大分時間も経ち、ここで"Perspective Pollini 2012〜2013"についての説明がありました。
ベートーヴェンの作品53(ワルトシュタイン)以降後期のソナタと4つの現代作品(シュトックハウゼン、マンゾーニ、シャリーノ、ラッヘンマン)を組み合わせたシリーズを計画している、とのこと。
来シーズンのルツェルンから始まり、パリ、ベルリン、東京、ニューヨークで行なわれる計画です。日本では「2012年秋」の予定とのことでした。
その後、すでに1時間は過ぎていましたが、ピアノを使って無調音楽の説明へと進み、昔は忌み嫌われ「悪魔の和音」といわれた不協和音を弾き、調性の崩壊、十二音技法、無調性がどのように推移し、機能するかについて、ワグナー「ジークフリート」、ドビュッシーの前奏曲(「霧」?)、またベートーヴェンのソナタ32番の冒頭などを弾いてくれました。
ピアノを弾くマエストロは楽しげで、時間の制約がなければ、もっと弾き、語りたいかのよう。最後に一番低いドから5度ずつ上昇し、12回繰り返した後に最高音のドに至ることを示し、12という数は自然の理に叶ったものと思います、と締めくくられました。
ほんの少しでしたが、マエストロのピアノの音に触れられて、幸せな気持ちを味わえました。
以上、読めない字のメモをもとに記しましたが、記憶容量の少なさ、忘却の河の流れの早さもあり、きわめて不十分な内容、又もともとよく理解できていない点(楽典的な話し)もあり、誤っていることもあるかもしれません。補足、訂正など、気がつかれたことがあれば、どうぞご連絡くださいませm(_ _)m