時々の雑記帳

音楽のこと、ポリーニのこと、日々の雑感を、
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このほかの日記帳はこちらを、すぐ前のものは「秋」10〜11月を、後のものは「春」4〜6月をご覧ください。

(1月〜3月)

弥生の空は…雲ばかり
お雛祭りが雪の日になったのは、ちょっと悲しいけれど、日の出が早まり、日脚も伸びて、光は明るさを増してくる三月。「弥生」は“いや増して生うる=草木がだんだん芽吹く”という意味だそうです。まだまだ寒い日が多いけれど、自然は着実に春への歩みを進めているようです。沈丁花が香り、“春の木”椿が咲き、木蓮の蕾が輝きを増し、枝先を膨らませる木々、啼き交わす小鳥たち。寒さには身を引き締め、光を内に蓄えて、一気に花開こうと暖かさの訪れを待っているのでしょう。

日本では“年度末”となる三月。様々なことが終りを迎え、卒業、別れの季節、また旅立ち、新たなことへの準備の季節。なんとなく慌しい日々ですが、同時にちょっとウキウキしながらも落ち着いた気分でいられるのは、ポリーニ・リサイタルのプログラムが発表になったからでしょうか。 あの曲かしら? このプログラムかも? その曲も聴きたいなぁ・・・などと、妄想をたくましくしながら、結局、マエストロの演奏なら何でも良い、何でも聴きたい!という気持になって、待っていたのでした。

今月の「音楽の友」誌に、ツィメルマンのインタヴューがありました。彼はプログラムを、その時に自分の一番良い音楽を聴かせたい、という思いから、直前まで決め(られ)ないそうです。楽器そのものにも強い関心を持つ彼らしい、真面目で慎重なあり方(「頑固」と言っています)と思えます。
一方、一年を通して世界中で同じプログラムを演奏するキーシン。彼はそのやり方で自己の音楽を深めていくのでしょう。そして、夥しい数のアンコールを弾くのも、彼の演奏会のもう一つの楽しみ・・・聴衆にとっても、彼にとっても・・・のようです。

さて、わがマエストロのプログラムは、広いレパートリーの、手に馴染んだ多くの曲の中から、よく考えられ、選び出されたもの、という気がします。そして、聴衆への愛情の感じられる・・・(と思うのは、私だけかしら?)。
日本の前に3つの都市を巡る中国ツァーがありますが、初の演奏会を開く香港でも、日本と同じ「オール・ショパン・プログラム」です。ピアノ音楽ファン誰もが愛するショパン。精緻な前奏曲に始まる多彩な曲たちがその魅力を伝え、マエストロの演奏はピアノを聴く喜びを存分に味合わせてくれることでしょう。
久しぶりの日本の聴衆のために、もう一つ選ばれたのはシューマンと近・現代の作品。ソナタ第3番「管弦楽のない協奏曲」は、日本では1989年の来日で演奏された曲ですが、最近では昨年夏のシエナ、ザルツブルクの音楽祭でも披露された大曲です。ドビュッシーの練習曲集第2集は1993年に日本で演奏されていますが、近頃では2007年アメリカでショパン、ブーレーズと、昨年のヨーロッパではシェーンベルク、ウェーベルンとの組合わせで演奏されました。シューマンの作品と共に聴く一夕、どんな感興を呼び覚まされるのでしょうか。

ドイツのマルタさんからメールで、最近のマエストロのリサイタルの様子を伝えてくれました。
ミラノでは絶好調だったと。アムステルダムでは最初はナーヴァスだったけれど、“アパッショナータ”は驚くべき速さで素晴らしい演奏、スタンディング・オヴェーション! アンコールはショパンの3曲、ノクターン8番、「革命」、バラード1番。
それから来年6月のアムステルダムでは、シューマン/ショパン・プログラムのリサイタルが予定されていると書いてありました。
来年はショパン・イヤーといわれますが、シューマンも生誕200年のメモリアル・イヤー。マエストロにとってシューマンは、演奏活動を始めた頃からずっと取り組んできた大切な作曲家です。同時代を生き、ともにロマン派を代表する作曲家でありながら、大きく個性の異なる二人の天才を、よりよく聴き、さらに深く理解するようになり、もっと親しむことができれば、とても幸せ!と思います。そう、今年のマエストロのリサイタルも、その第一歩ですね。

2009年 3月4日 11:45

パリ〜ミラノ
二月は逃げ月とか。節分、立春を過ぎ、気がつけばもう三分の一月ほどが経過していました。暦の上では春といわれ、この数日は暖かめの気候に春の訪れを思いましたが、でも、“春は名のみーの風の寒さや〜♪”。北風の冷たさに、寒さはまだまだこれから・・・と、気を引き締めさせられます。

マエストロのプロジェクトは、先月末パリで、2日にはミラノで幕を開けました。
パリのプロジェクトは“Pollini Perspectives"と名付けられ、全9回(10回ではなく)のプログラムが、来シーズンに行われるものも含め、発表されました。“L'EXPRESS”には長いインタビューもあり(残念ながら全く読めません^^;)、注目されているプロジェクトであることがうかがえます。
25日の公演評(仏語)もありましたが、読めず(T_T)。ただ、ブーレーズも客席にいて、演奏後、共に賞賛を受けていたこと、アンコールが「沈める寺」だったことが判りました。
あるブログ(英語)にブーレーズのソナタについての考察があり、「ポリーニのこの曲の録音は私の人生を変えた。音楽は、ピアノは、その響きをこんなにも激越な、激烈なものにできるのかと、衝撃的な体験だった。今日のポリーニの演奏も、やはり同じように〈顎の外れるような〉驚愕を呼び覚ました・・・。」そして、「前半のベートーヴェンの“熱情ソナタ”も驚くべきものだったが、その終りの時よりも更に熱狂的な喝采を、ホール中が送っていた」というような記載がありました。
パリでの第1回は大成功だったようですね。

ミラノの演奏会の評は、イタリア語なのに少々読みにくい文章でした(近頃不勉強で、すみません^^;)。ザッと拾い読みしてみると・・・。

ピアノの前に座り、天を仰ぎながら弾き始めるポリーニ、幾度も演奏し、探求した曲から、純粋な音を再び見出そうとするかのように・・・とマエストロの演奏姿を描きながら、次いでポリーニは老けた、髪が少なく、白くなった・・・などと(失礼な!)書いています。
にも拘らず“テンペスト”は今まさに我々の目の前で生まれたようだった、と感嘆しています。いつものようにエネルギーに満ちて、力強い低音、素晴らしい歌。アルペッジョは水晶のように澄んで、色彩の祝祭。そして非常に明晰に、素晴らしい明澄さで(結局、ポリーニはちっとも老けちゃいないよ、と言いたいのかしら^^)。
“熱情”はまた堂々として力強い演奏だった。第二楽章の歌は最高の調和ある歌、ギリシャの神殿建築を思わせるような、調和の歌だった。崇高で、簡素で、反復を続けながらより豊かに、また対位法をつけてゆき、変奏は基本の核心を常により美しいものにしていった。
(前半については手放しの称賛ぶりです。けれども、後半については・・・。)

しかし、その後はブーレーズだった。この曲はポリーニの意思表明的な選択であり、美の博物館の優秀な管理人となることを拒否する彼の立ち位置を示すものだ。曲は60年まえに生れた時と同様に、響きとフォルムの探求であり、氷のように冷静な知的なしぐさであり、より熱い者たちからは咳払いを受けたりもしていた、つい数分前には息を殺しているばかりだったのだが。
ポリーニはこれまでずっと〈新しい〉音楽を保護することに邁進してきた。しかし(その曲も)年を経てきた今、当時それを擁護するのに勇気を要した時代と比べ、今ではそれは無用なように思われる。
20世紀に“少々固執した”偉大なマエストロのベートーヴェン1曲、あるいはショパン1曲の素晴らしい演奏を聴くために払う勘定は、一般的には滑り落ちて(減って?)いるのに、ポリーニ一人が気付かないふりをして、その友ピエールと一緒に世界中に「ミックス・パック」のプロジェクトを提案し続けている。Beethoven、Schumann、Bach、MendelssohnそしてChopin。その代わりに、Boulez、Stockhausen、Schonberg、Webern、BergそしてNono。イエスかノーかのジャンルだ。
だが、ともかくも、この夕べはこのソナタで終りではなかった。より馴染み深いフランス近代、ドビュッシーの2曲のアンコールがあった。こうして、とても心地良く(dolce)家路についたのだった。ポリーニはよく判っている、我々はそう信じている。

“まったくもう、髪の白いアバンギャルドなんてナンセンスだ”などと書いているこの評者は、ポリーニのプロジェクトには批判的な目を向けているようです。一評論家の見方はともかく、スカラ座を埋めた聴衆は、どのように受け取っていたのでしょうか。マエストロのお膝元ミラノのプロジェクト。成功を願ってやみません。

今回の更新は、パリのPerspectivesを付け加えました。「2009年のスケジュール」には今年の分だけですが、English版の Pollini's Schedule [2008-2009 Season] には2010年の分まで全9回を載せました。
昨年12月のチューリッヒのプログラム、その後の演奏会のアンコール曲も、付け加えてあります。

2009年2月9日 18:15

大きなプラン
一昨日は春のような暖かさに気持もウキウキしましたが、昨日は一転真冬の気候でした。
チケットを手に入れて(本日の一般発売に挑む方、頑張ってください!)ホッとして、後は5月を待つばかり・・・と浮かれましたが、まだまだ寒さは厳しく、春は遠いのですね。でも、冬枯れの景色の中に、遠目には霞のように、近づけば紅梅や白梅が可憐な花をつけ、寒気の中に凛として芳香を漂わせているのを見ると、やはり自然はちゃんと歩みを進めている、春遠からじ・・・と嬉しい気持ちにもなります。
プログラムの発表はまだですが、“しかし、よろしい。「この人なら何を弾いたって聴きに行きたい」と言わせる稀な演奏家の最たる者が彼なのだから”(濱田滋郎さんの文)とチラシの裏にもあります。何を弾いてくれるのかな?と思い巡らす楽しみを、もう少し味わいつつ、発表を待ちましょう。

もう一つ、私が待っていたのは、中国ツァーの情報でした。日本公演に先立ち、香港、上海、北京を巡るリサイタル・ツァーが予定されていたのです。詳細はまだ判りませんが、14日香港、19日上海、24日北京の日程が、DGサイトに表示されました。2006年に初の中国公演の北京で大成功を収め、古い歴史をもつ大きな国・中国に心惹かれていたマエストロ。中国でのリサイタル・ツァーをきっと楽しみにしておられることでしょう。今回は日本にいらっしゃるまでに、かなり余裕ある日程と思われますが(他にも公演があるのでしょうか・・・)、大きく深い中国の文化に触れ、ゆっくりと楽しい時を過ごされると良いですね。前回“チベットに行きたい!”と熱心に望んだというマエストロ・・・。決して無理(無茶)はなさらないでください!!と、これは声を大にして申し上げたいです。

ポリーニの今年の公演は、1月5日のベルリンでの協奏曲演奏から始まりました。シューマンの演奏はとても美しく、大成功だったと、Janさんの感想をゲストブックに記しました。コンツェルト・ハウスでの6日の演奏も、ある方によれば「今まで聴いてきた中でも最高では!!」という素晴らしさだったようで、大喝采に応えてマエストロはアンコールにショパンのバラード第1番を弾いたそうです。サイン会もあり、5日は休憩時間に燕尾服のままで、6日は終了後にバレンボイムと一緒に行われたそうです。ご機嫌なマエストロ達の姿を想像して、嬉しくなりました。

ポリーニのリサイタルは、21日のケルンが今年最初のもの。Koelnische Rundschauに「嵐(Sturm)が鍵盤の上を吹き過ぎた」という題の評がありました。
「イタリアのヴィルトゥオーゾは聴衆を座席から引き剥がした。“Appassionata”の最後の和音が鳴っているうちに、早くも喝采が沸き起こった。全く稀有な素晴らしい夕べだった。」(個々の曲についてはムズカシイので省略させていただきますm(_ _)m)
アンコールは「沈める寺」から始まり、最後にスケルツォ第3番。これも熱狂的な喝采を浴び、聴衆の「常軌を逸した」様子も偶然ではない、と結んでいます(ドイツ人も「常軌を逸した」とは・・・)。

25日からはパリでポリーニ・プロジェクトが始まります。Le Figaroの紹介文によると、(現在は4回の公演が発表されていますが)2010年の来シーズンに渡って、全10回の公演が計画されているそうです。おそらくミラノでも同じように進行するのでしょう。マエストロの描く音楽世界の大きさ、それを実現させる意志の強さと実行力に、驚かされます。
その一部かと思われる公演もいくつか見つかりましたので、English Scheduleに付け加えました。
ニューヨークでも新シーズンが発表されています。

2009年1月25日 2:15

温もりを求めて
初春のお慶びを申し上げます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

皆様良いお正月をお迎えのことと存じます。北日本は大雪の元日だったようですが、関東以南(以西)は、空気は冷たいけれど、晴天に恵まれた穏やかな三が日でした。人も車も犬も通らない道、小鳥の囀りだけが空にひびく街並、しばしの静寂。でも帰省ラッシュ、帰国ラッシュも終り、五日からは仕事初め。もう普通の生活に戻るのですね。

普通の暮らし・・・。“新年”とはいえ、旧年の山積した問題は何も解決せぬままに、年末年始、この寒い冬の日を不安のうちに過ごした方が多かったのは、本当に心痛むことです。
自治体が手を差し伸べ、募金が集まり、ボランティア団体がテントを張り、炊き出しを行う・・・頭が下がりますm(_ _)m。
そして厚労省が建物の一部を宿泊所に開放した・・・「異例の措置」なのでしょうが、これも小さな一歩となるのでしょうか。弱者を保護するだけでなく、問題の根本へと迫るために。この状況の原因、元凶を見つめなければ、問題の解決はできないでしょうから。
弱者を大量に生み出し、冷然と切り捨てる社会は、強者のためにのみ在るかのよう。働く人を護るのは企業の社会的責任でしょうに。すべての国民が健康で文化的な生活を送れるようにするのが、国の務めでしょうに。一日も早く、より良い方向への変革が行われるように、温もりのある明るい社会になるようにと、切に祈る思いです。

さて、今日1月5日はマエストロの67歳のお誕生日。同じ誕生日のブレンデルさん(78歳)は昨年で演奏活動から退き、今後は講演などを通じて音楽に親しむ活動をするようです。いまやマエストロはピアノ界の長老(?)or 重鎮というべき位置にいるわけですが、意欲的な精神、前向きな姿勢は若い頃と少しも変ることなく、むしろ、より自由にそして大胆に、今年はパリとミラノでポリーニ・プロジェクトを並行して開きます。シュトックハウゼン、ブーレーズ、ノーノの作品から、新ウィーン楽派の作品、ブラームス、シューマン、ベートーヴェンそしてバッハの作品へと、時代とジャンルを自由に行き来するような構成です。
マエストロ自身もパリとミラノを行き来しながら、他のヨーロッパの都市を巡るこのシーズン、お元気で活動されることを願って止みません。

そして今日はベルリンで、シューマンの協奏曲の演奏会。
バレンボイムさんもお忙しいこと、ベルリンに戻ればすぐにリハーサルかしら、などと思いながら、元日ウィーン・フィルのニュー・イヤーコンサートを聴きました(第一部のみですが)。同い年の、個人的にも親しく、以前にも共演しているマエストロたち。素晴らしい新年の演奏会となりますように!

そう、今年はべルリンの空に向かって、ご一緒に叫びましょう。

Tanti Auguri per il compleanno, Maestro Pollini!

マエストロ・ポリーニ、お誕生日おめでとうございます!
お元気で、ご活躍を!
5月の日本で、お待ちしています!

2009年、日本は久々の“ポリーニ・イヤー”。2年半ぶりのマエストロの来日は、本当に嬉しいニュースでしたね。お元気で来日し、素晴らしい演奏を聴かせて欲しい・・・。15日からはチケットも発売されます(カジモト・イープラスの先行発売)。プログラムもそろそろ発表になるかしら・・・と心待ちにしている今日この頃です。

今回の更新は、バイオグラフィに少し追記し、スケジュール表に1つ日程を加えました。8月末、ライプツィッヒでの演奏会です。今年はメンデルスゾーン生誕200年の記念年なのですね。マエストロが演奏するのはベートーヴェンの協奏曲ですが、メンデルスゾーンのピアノ曲、美しい「無言歌」なども聴いてみたいですネ。

2009年1月5日 0:20

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