木々の緑が濃さを増し、紫陽花の青さが目に鮮やかになりました。梔子の白い花も咲き、甘い香りは周りの空気を少し重たげに感じさせます。もうすぐ梅雨入りでしょうか、鬱陶しい空模様が続きます。
ポリーニの演奏会が終って二週間あまり、興奮は醒めたけれど、あの感動は今なお宝物のように心に残っています。しっとりした中にも華やかさを秘めた、青や紫の紫陽花を胸に抱いているような・・・。
ある方から嬉しいメールをいただきました。中国語にご堪能で、Webに載った中国語のインタヴューを訳して送ってくださったのです。皆様にも楽しんでいただけることでしょう。
「中国の音楽家たちにより良い未来がありますように 〜Maurizio Polliniインタビュー」
2009年、5月21日 新京報(北京) http://ent.163.com/09/0521/09/59R0J4CG000335TL.html
Q.暗譜で弾く習慣は、どうやって身についたのですか?
Maurizio Pollini/A.(以下A.と略す):私は1968年に、ある作品の初演の前に、1日5ページずつ暗譜し、60ページの楽譜を熟練して覚えた事がありました。(楽譜を)一目見て記憶する才能を持っている人もいますが、私にはそういう才能がないので、指で覚えるようにしたのです。普段から街の中を歩いても、家にいる時も、頭の中には常に音楽が奏でられているのです。
Q.文字(訳注:文学の事)から受ける影響は?
A.私はモーパッサンを読むのが好きです。また、ソフォクレスが好きで、「アンテイゴネー」は最も好きなギリシャ悲劇の一つです。また、私はジョイスの「ユリシーズ」を読みたいのですが、英語で読むかイタリア語で読むかまだ決めていません。シェークスピアの全集は、英語とイタリア語の両方で全て読みました。
(訳注:ジョイスについては、Yahoo百科事典参照http://100.yahoo.co.jp/detail/%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%82%A4%E3%82%B9/)
Q.数年前に郎朗があなたの代わりに舞台に上がったことがありましたが、彼の演奏を聴いたことがありますか?
また、中国の若い音楽家たちに何かアドバイスを頂けますか?
(訳注:郎朗(らんらん):中国のピアニスト、北京オリンピックの開会式でも演奏した)
A.私は郎朗が現在、とても成功した(音楽家である)事を知っています。残念ながら彼の生演奏を聴いた事がありません。私は、中国の若いピアニストたちの演奏や、中国の作曲家たちの作品に触れた事がありません。彼らにより良い未来がある事を願っています。音楽面だけでなく、人間性においても成長する事を願っています。
私は、中国のクラシック音楽の学習に新たな風潮が生れつつあり、多くの若者が演奏会に足を運ぶようになったと感じています。私は、中国の音楽教育が、西洋の音楽学院のように、まずバッハ、モーツァルトを教えて、最後に現代音楽を教えるという事がないように願っています。同時に全てを教えたら良いのです。 (終)
1968年に暗譜した曲・・・翌年1月にブーレーズの第2ソナタを初演しているので、そのことでしょうか。
文学の趣味もギリシャ古典から現代まで幅広いですねぇ。フランス文学もお好きなようで、以前のあるインタヴューは、プルースト「失われた時を求めて」を読み了えた時でした。
ランランがポリーニの代役を努めた、というのは何時、何処で、どんな曲でのことでしょう。
“同時に全てを教えたら良いのです”・・・マエストロの視野には音楽(史)の概観が広がっているのでしょうけれど・・・。
まとめられた問いと答えの間にも、きっと、もっともっと多くの言葉があったのでしょうね。マエストロに尋ねたいこと、沢山ありますが、その一端を窺うことが出来ました。N様、本当にありがとうございました。
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マエストロの6月はいつも、ヨーロッパの主要都市でシーズン最後のリサイタルです。ウィーン(芸術週間には毎年出演)やパリ、ロンドン(今年は行かないけれど)などは、ツアーというより、ポリーニがミラノ同様に“本拠”と感じる都市なのではないでしょうか。爽やかな6月のヨーロッパで、慣れ親しんだ都市で、深く愛するバッハ「平均律クラヴィーア曲集第1巻」に取り組むマエストロ。素晴らしい演奏会になりますように!
昨日はサルディニアのカリャリ(Cagliari)で第9回聖エフィジオ音楽祭の最後(といってもオペラの演目は7日まで続きますが)を飾るリサイタル。
たまたま「巨匠たちのラストコンサート」(中川右介著、文春新書)という本を読んでいたら、カルロス・クライバーの章に“カリアリ”が出てきました。バイエルン放送交響楽団とベートーヴェン:交響曲第4番・第7番を、1999年2月26日この地で振ったのが、最後のコンサートだったのです。著者は“カリアリ”が地中海の島サルデーニャにあると知って、次のように書いています。「一月のカナリア諸島もそうだし、その前のスロヴェニアといい、まるで『俺を聴きたければ、地の果て、海の果てまでついてきな』というような態度である。」(章の題名も『 』の中の言葉。クライバーがこんな言葉を発するとは思えませんが。) ヨーロッパの人々から見れば日本(極東)の方が余程“地の果て”なのでは?と、可笑(苦笑)しくなりました。
カナリア諸島はスペイン領でヨーロッパ有数のリゾート、スロヴェニアは夫人の出身地で、演奏会の行われたリュブリャーナは首都、中部のコニシツァは今やクライバー夫妻の眠る土地です。そして、ラスト・コンサートの地“地中海の中”のカリアリ。先史時代、ローマ帝国時代の遺跡も残る、交易で栄えた美しい町です。
ポリーニの演奏会を前に、劇場の支配人は「ポリーニの再訪をとても誇りに思います。この音楽祭が今シーズン最も期待されるものの一つと認められることの証です。2010年も聴衆の期待に応えるよう努力しています」と(いうようなことを)述べています。
8日にはウィーンで、芸術週間のリサイタル。翌9日には市庁舎にて、その功績を称えてウィーン州から金賞が贈られるそうです。おめでとうございます、マエストロ!
今回の更新は、2010年のスケジュール表をUPしました。といっても、6月まで、2009−2010シーズンまでですが、ショパン=シューマン・イヤーに相応しいリサイタルばかりです。秋からのスケジュールはまだまだ判りませんが、2010年の後半も楽しみですね。