10月は爽やかな秋晴れの月、運動会や遠足や旅行やらに最適の季節、のはずなのに、曇り、時々雨、ほんの時々晴、そんな変な天候で幕を開けました。青空の下、秋風とともに、金木犀の香りを追って、コスモスの原っぱを訪ね、色づく木々を眺めに、どこかへ行きたいなぁ・・・と夢見ていたのに。
でも、“10月になったら!(^^)v”と、ず〜っと待ち望んでいた願いは叶って、3日、心は秋晴れに、夜空の中秋の名月のように、明るい心地になりました〜。マエストロの新譜、バッハ「平均律クラヴィーア曲集第1巻」が届いたのです!!!
まだ1枚しか聴いていませんが(時間の都合と、それ以上に、畏れ多くてもったいなくて・・・という気持ちもあって)、本当に美しい音で、凛とした気配が漂い、詩情豊かに、歌心に満ちて(マエストロの歌声も^^)、弾き進められています。ピアノという楽器の豊かさ、大きさが生かされて、チェンバロでの演奏とはまた異なる魅力を表した、素晴らしい曲になっていると思いました。録音は“Munich, Herkulessaal, 9/2008 & 2/2009”と書いてあります。
CD店のウェブサイトのコピーでは
「20年以上もの長きにわたりリサイタルでは平均律を弾いてきた」(ユニバーサルIMS、タワーレコード)とか、
「コンサートではバッハの平均律クラヴィーアを何度も取り上げてきた」(HMV)とか、書かれていますが、ちょっと違和感を感じるものでした。
手元に1986年、来日時ののインタヴューがあります(「音楽現代」1986年7月号)。バッハについて語っている部分を引用させていただきます。
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ポリーニ:バッハに関して言えば、昨年イタリア各地、ベルリン、ロンドン、ニューヨークで、「平均律クラヴィーア曲集」の第一巻を初めてプログラムに載せました。次回来日の時には日本でもやりたいと思っています。
――勿論ピアノでですね。
ポリーニ:そうです。御承知のようにバッハの時代にはピアノという楽器がなく、バッハはクラヴィチェンバロのために作曲していたわけです。ですから私は永い間、バッハを演奏することをためらっていた、というか、ピアノで弾く意味を考え続けてきました。
つまり、本来そういうピアノでない楽器のために書かれた曲ですから、それを演奏する時は、ピアノのために書かれた作品とは違った奏法、あるいは解釈が必要ではないかと思い続けてきたわけです。
けれども、バッハの音楽は特定の楽器と分かち難く結びついている種類の音楽というものではなくて、その楽器を超えたもう少し大きな世界をもった音楽と考えるようになったわけです。そう考えるならば、何もクラヴィチェンバロにこだわることもない、ということで昨年から決心がついて演奏するようになったわけです。
勿論、ピアノでバッハを弾くからには、ピアノの全可能性を生かすように考えて演奏します。バッハ自身もある楽器のために作曲した作品を他の楽器のために転用している例はたくさんあります。楽器を変えるばかりでなく、カンタータすら転用しているわけで、その意味でもクラヴィチェンバロのために作曲された作品からピアノでもってどのような可能性を引き出せるかを考えて演奏しているつもりです。
その意味で最近流行している古楽器、あるいはオリジナル楽器での演奏は、そのこと自体は大変けっこうなことですけれども、時にバッハのような作品の場合、そういう世界だけに閉じこめておく、つまり、古楽器演奏でなければいけないという考え方には、私はあまり賛成できません。
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1985年はバッハ生誕300年。その年にはポリーニ自身が語るようにイタリア各地(トリノSettembre Musicaなど)、ベルリン、ロンドン、ニューヨークで演奏しましたが、以後(私の知る限り、ですが)2008年2月のブリュッセルまで演奏していないようです。その後、録音を終えて、今年6月にはカリャリ、ウィーン、パリ、ミラノで披露しました。
ポリーニにとって、バッハは幼い時から親しみ、傾倒してきた作曲家。けれども演奏会で取り上げたのは数えるほど、また録音を計画してからも、長い年月をかけて極めて慎重に臨んできた作曲家です。ピアニストとしてバッハの作品にいかに向き合うか、真摯に、真剣に探求してきたポリーニ。そして今、ピアノという楽器を豊かに生かしきって、偉大なバッハの世界を表現するマエストロ。
この初のバッハ録音の価値は、計り知れないものがあると、手にするだけで身が引き締まる思いがします。
ブックレットに書かれた解説文の題名は"Let the 'Well-Tempered Clavier' be your daily bread"。シューマンの言葉(原語ではDas 'wohltemperirte Clavier' sei dein taeglich Brot) だそうです。この秋、この曲集を“日々の糧に”、感謝しつつ、音楽に親しんでいきたいと思っています。
9月半ばに、ドイツのJanさんからボンのリサイタルの感想をメールでいただきました。
ベートーヴェン・フェストでは、プログラムの変更があり、作品14のソナタ第9、10番に変えて、テンペスト、アパッショナータが演奏されたとのこと。前半にはソナタ第4番と11番が並ぶ、ヘビーなプログラムです。勿論素晴らしい演奏で、聴衆は大喝采、でも、ちょっとお疲れの様子のポリーニは、アンコールには応じなかったとのことでした。
9月26日には、8日パリに引き続き、ミラノでベートーヴェンの協奏曲第4番を演奏する、シャイーとゲヴァントハウス管との演奏会、Progetto Pollini 5です。24日にはポリーニとシャイーが出席して、最初に演奏されるノーノの作品“シンフォニア”について語る会が開かれました。イタリアの二人のマエストロにとって、ノーノを演奏することは、とても大切なことなのでしょうね。
10月18日には、ショパン、ノーノ作品の演奏会が、またパリに引き続き開かれますが、これがミラノでのProgetto Polliniの最後の演奏会だそうです。月末のブーレーズとのバルトークの協奏曲は、含まれないのでしょうか。またベリオ作品や“ハンマークラヴィーア”を演奏する会が、12月にボローニャで開催されるそうです。
スケジュール表に変更・追加を書き入れました。
また、大変遅くなりましたが、今春の来日の記録を“Bravo e Grazie! Maestro!! 2009年の感動”としてUpしました。 ご協力ありがとうございました。
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