セミの声は少し間遠になり、夏の終わりを知ったように懸命に鳴いています。夕暮れは早くなり、澄んだ虫の声が夜の空気を涼しく感じさせます。秋には澄んだ音が相応しい・・・そう、ポリーニの新譜に、つい思いを馳せてしまいますネ。
長い猛暑の後は豪雨に落雷。異常な天候続きの夏でした。9月になれば“青天の霹靂”。雷様は何処に落ちたのか、なにやら有象無象(?)が現れて、騒がしい日本の秋です。秋は落ち着いて、音楽や美術を楽しみたいのに・・・。
マエストロは、お元気で充実した夏を過ごされたようです。
ザルツブルクのリサイタルからは、Janさんのホットなメールが届きました。全て好調で、聴衆はスタンディング・オヴェーション、ポリーニは4つのアンコールで応えたそうです。
〔リスト:超絶技巧練習曲10番、ショパン:練習曲“革命”、op.10-4、それにノクターン第8番〕。
「3つのソナタに、3つの練習曲・・・とっても素晴らしかった!」
ウ〜〜ン、良いなぁ・・・。本当に、どれもメインといえそうな3曲のソナタに、弾き応え(聴き応え)のある曲ばかりのアンコール、そして最後にノクターンが、どんなにか美しく、優しく、響いたことでしょう。
“der Standard”にも評がありました。(同じ頃クヴァストホフがブラームスを演奏したことに絡めて)ブラームスはリストの大きなソナタを聴いて、眠りこけてしまったが・・・という前置きがあって。
「シューマンの大ソナタから、ショパンの葬送行進曲つきソナタを経て、リストのこのソナタで締めくくる演奏会は、夜9時から始まり2時間にも及ぶ長いもので、ソリストも聴衆もきっと集中力が弛んでくると思われても当然だろう。だが、ポリーニがピアノを演奏する時はそうではなかった。
ホールの中は、ピンが落ちる音も聞こえるほど(の静寂)だったが、聴衆は幸にして、ポリーニの客観的で、テクニック的に電光を発するような模範的演奏を聴くことが出来た。
シューマンは感情を抑えて奏され、それによって分析的な執拗さ無しに、主題の組み合わせがよく聞き取れた。
ショパンでも、さまざまな情緒が惹起するのを、彼はただ接続法で(直接的な表出でなく)ほのめかした。
リストのソナタは、視覚−聴覚的にパトスを示威するやり方よりも、感情的に禁欲であることによってはるかに強い効果を得られるという、まさに模範的なお手本ともなる演奏だった。リストの作品はあたかも様式の真空の中に置かれたようだ。そこではこの画期的な新しさは、150年後もなお驚愕させる現在のものと感じられ、同様に、その伝統との連結点は、形式と和声の拘束が弛緩している後世においては、方向を指示するものとして認識しうるものとなった。」
ブラームスも、この聴衆の歓呼を受けた演奏の魅力は拒めなかったろうし、眠り込むこともなかっただろうに、と結んでいます。
リストのソナタはルツェルンでもプロジェクトの1日目に演奏されましたが、ここでもブラームスが引き合いに出されて(お気の毒に^^;)、ポリーニがピアノに激しくアタックするのに魅せられて、聴衆は誰一人そんな(眠る)ことはしなかった、とありました。ポリーニの優れたテクニック、輝かしい音、並外れた集中力、そして曲からその魅力を引き出す深い理解は、リストの曲を時代を超えて不滅の音楽にしているかのようです。
アンコールには「超絶技巧練習曲10番」と「沈める寺」。
また、この日前半のシュトックハウゼンのピアノ曲も素晴らしかったようで、あるブログ(英語ですが)にpositiveな評(感想)がありました(Thank you, Jan!)。
2日目のショパンも素晴らしかったようです。「全て良く慣れた進み方で、彼の好むエネルギッシュできちんと整えられた音で演奏された。自由自在なルバート、だが常にコントロールされ、いつでも感知される基礎的パルスの上になされている。嗄れた歌声で(?)進んでいくが、どこにもゆがんだものはない・・・ここには彼自身のための表出、或いはShow(見せようとするもの)も全く無かった。」
ノーノの作品も、感動的な体験だった、と受け入れられています。“Djamila Buopacha”もプログラムに追加され、B.ハンニガンのソプラノで演奏されました。
ルツェルンでは初めてのポリーニ・プロジェクト。僅か2回の公演であっても、ポリーニが今一番やりたいことが込められた内容だったのではないでしょうか。彼の「伝統と現代の関連」の追求は、「ルツェルン・フェスティヴァルの方向を指し示すもの」とも書かれていました。アカデミーをブーレーズが主導し(かつてポリーニも尽力しました)、今年もG.ベンジャミン、O.ナッセン、O.メシアン他、多くの現代作曲家の作品が演奏されている音楽祭です。ポリーニの信念ある活動が多くの都市で受け入れられ、またその場を開拓してきたことは、本当に素晴らしいですね。さすが、マエストロ!
9月の活動は、コペンハーゲンのチヴォリでのリサイタル。“PIANOFORTE!”という企画にツィメルマンやシフに続いての登場で、この都市では初の公演だそうです。やっと判ったプログラムはベートーヴェンとリスト。これもまた聴き応えあるプログラムですね。
下旬にはウィーンでアバド+ルツェルン祝祭管とベートーヴェンの第4協奏曲。夏の音楽祭では両マエストロの共演はありませんでしたが、きっとそれぞれの演奏会にも足を運び、親しく過ごされたことでしょう(^^)。
「ポリーニのプロジェクト」に“ルツェルン”を加え、スケジュール表に新たな日程(12月)と明らかになった曲目、アンコール曲など、付け加えました。