ルツェルン・ウィークの2日目は、午前中からの公開リハーサルで始まりました。ある方からチケットを頂き、迷った末(夜はサイン会だし・・・、家事も少しはしなきゃなぁ・・・)参加したのですが、やっぱり、来て良かった〜〜ッ!
マーラーの曲は長大で、私にはムズカシイ感じがして敬遠気味、予習もさっぱり進んでいなかったのです。リハーサルといっても、楽章通しての演奏なので、ライヴで贅沢な“予習”をさせてもらえました。
観客席は2階に指定され、そこから見る大編成のオーケストラにまず目を見張ります、舞台からはみ出しそうな配置。
時間どおりにマエストロ・アバドが登場、お元気そうな足取りです。この曲は夏のルツェルンで演奏したもの、昨日もリハーサルがあったようで、細部などはもう了解済みなのでしょう、楽章を通して演奏し、アバドが穏やかな声で何か発言し、部分的に弾き直すという形で、進んでいきました。開始の音の重厚さ、迫力にゾクゾクし、管楽器の名手達の美しい音に耳を傾け、いつしか、マーラーの音楽を楽しんでいました。なによりも、この曲の緩徐楽章、また他の楽章でも随所に現れる美しいフレーズに魅了されました。
アバドの指揮姿はしなやかで、力のこもった部分でも力みはなく、けれど、オケから出てくる音は迫力十分。また簡潔な指示でありながら、ニュアンス豊かな響きが出てきます。オーケストラとアバドの信頼関係がうかがえます。14日の演奏会が本当に楽しみになりました。
20分の休憩後は、モーツァルトのアリア。温かい声のソプラノとごく小編成の管・弦楽器奏者による、小さい宝石のような上質な曲を楽しみました。
夕方は渋谷のタワーレコードへ。
4時半、すでに数名の方が並んでいらっしゃいます。約250枚ほどのサイン券はすべて出てしまい、マエストロの好意で、当日「ノクターン」を購入した人もサインしていただける、とのこと。在庫はすぐに売り切れたようです。
サインはCDのみ、演奏会を控えているので握手はしません、撮影・録音は禁止です、と注意事項が度々アナウンスされます。ユニヴァーサルの担当者にとっても緊張のイヴェントなのかもしれません。フロアは次第に大勢のファンで埋まり、プロのカメラやマイクがセットされて行き、立って待っている私達も期待感が高まります。
6時、マエストロの登場を待ちますが、車の渋滞で遅れ気味。岡部真一郎先生が、少し話しを始められたところへ、ついに、マエストロが到着されました。
大きな拍手で迎えたマエストロは、薄いグレーのスーツに水色のシャツ、紺地に赤や黄の小さな柄のネクタイ。間近でご機嫌の良いお顔を見ると、嬉しくなって疲れも吹っ飛びます。笑顔で手を広げて“Thank you very much!”と席に着かれます(それはこちらの台詞です、マエストロ!)。お客の側にもきっと笑顔が溢れていたことでしょう。
岡部先生が質問し、マエストロが応えるトークは30分弱だったでしょうか。
まず昨日のリサイタルについて。マエストロもとても満足の様子で、日本の聴衆は音楽の意味をよく把握しようとし、どの音も注意深く聴いていて、素晴らしいです、演奏会の成功はその点にもあります、と聴衆への感謝を口にされます。嬉しいお褒めの言葉。(でも、やはり、感謝を述べるのは私達の方です!)
プログラムは、どれも新しい音楽語法を切り開いた作品を選んだ、とのこと。無調に踏み出すシェーンベルク、「熱情」の大胆な作曲法、調性から離脱していくリスト晩年の作品、ソナタも全く革新的な作品だ、との話。そしてリストからまたシェーンベルクへと円環を描くのですね、との岡部先生の言葉に頷かれていました。
ピアノは、これまでと違う響きのように感じたが、という問いに、これまでもファブリーニ氏の所有するピアノを運んで来た。彼は素晴らしい技術を持つ調律者だ。今回のピアノはパワフルで素晴らしい音で気に入っている、協奏曲にも使用するつもりでいます、とのこと。
新譜については、モーツァルトの協奏曲はこれまでいろいろな指揮者と、また自分の弾き振りでも演奏してきている。今回モーツァルト・イヤーで“Perspektiven”を行う際に、ウィーン・フィルと共演することになり、ドイツ・グラモフォンの提案で録音することになった、とのこと。来年6月に“Epilog”でまた2曲(小さいイ長調と偉大なハ短調)演奏する予定です、と(その録音は未定らしいです)。
ウィーン・フィルやベルリン・フィルは、室内楽のように互いの音を聴きあって演奏することができる本当に優れたオーケストラです、と、この共演を喜んでいる様子でした。
今年の秋冬の“Perspektiven”では、モーツァルトと新しい時代の作品を並べて演奏する。1日はベートーヴェンのバガテルなど小曲ばかりを集めて演奏する日もある。様々なジャンルの作品を対比し、楽しめるだろう、とのこと。
今後の録音の予定については、シュトックハウゼン、ベートーヴェンのソナタ、バッハの平均律クラヴィーア曲集第1巻を予定している、とのことでした。
(鳥頭状態のため、不十分なご報告でスミマセンm(_ _;)m)
トークはこのくらいで、ということで、サイン会に移ります。
丁寧に一人一人と目を合わせ、優しい笑顔を向けながら、30分ほどでサインを終えられました。最後に店のボード2枚にもサイン。(レジ上と、通路のCDの棚に飾ってあります)
サインを貰ってからも立ち去り難い大勢のファンに、また“Thank you very much!”、拍手で見送られ、マエストロは帰途に着きました。エレヴェーター前で手を振ってお別れするファンも。外にもまた、車の前にお見送りのファンが集まっていたそうです。
昨夕は、会社から駆けつけた、と思しき中年の男性方も沢山いました。ポリーニ・ファンは老若男女さまざま。でも、岡部先生がいみじくも仰ったように、皆、マエストロが一番好き!ということでは一緒なのでしょうね。間近に接するイヴェントで、日本のファンがどんなに敬愛しているか、きっとマエストロにも伝わったと信じています。
サイン会にはマリリーザ夫人と、昨夜のリサイタルでアバドと一緒にいらした老婦人も同行されていました。この方はどなたなのでしょう(Aulenti女史に似ておられるような・・・)? いずれにせよポリーニやアバドと家族ぐるみで親しくされている方なのでしょう。マエストロがご機嫌も良く、どこかリラックスしたようで、実力を十分に発揮されているのも、親しい友人や音楽の仲間達とともに来日されているからなのかもしれません。マエストロの温かなお人柄を垣間見たひと時でした。
14日は、オーケストラ・コンサート1の2回目の公演。イヤ〜〜〜、本当に本当に素晴らしかったです! 曲が終って数十秒の静寂、その深さ。言葉になりません。マエストロ・アバドも本当にお元気そうで、終演後の満足そうな笑顔が輝いて、私達も幸せになりました。
さあ、今日はチェンバー・フェスト。親しい音楽仲間とともに、マエストロの音楽がホールに、また演奏者達自身に、喜びの時をもたらしてくれることでしょう。行ってきま〜す!