とうとう最終日。3回の演奏から、現在のポリーニの素晴らしさをまざまざと感じさせられましたが、今日は中1日での公演、お疲れではないかと、一抹の心配もありました。
でも、3日目の最後のバラードの完璧な演奏を思えば、大丈夫! 今日も素晴らしい演奏会になるにちがいない!との予感・期待感も強まります。
この10日間、ポリーニがすべてで、何も手につかない私でしたが、今日はもう全身全霊あげてポリーニの音楽に没入しよう!
「幻想曲」、今日はピアノがよく鳴り、ホール中に次々とファンタジーの波が広がり満ち溢れるような、充実したものでした。今まで私はこの曲になにか苦手感があって、感動したことがなかったのですが(勿論素晴らしい曲とは思うのですが)、今日は熱くなって聴き入りました。音も美しく響き、マエストロの好調がうかがえるスタートでした。
今日の席は右手前方、手は見えないけれど、演奏中の表情のよく見える席です。一心にピアノに向かう集中した顔、時に厳しい表情にはなっても、終始穏やかさのあるお顔でした。
2002年の「熱情」の時など、顔を真っ赤にされての熱演に、マエストロ大丈夫?と心配にもなったのですが、今回は激しい箇所でも(あまり)顔色は変わらず、時おり宙を仰ぎ見るお顔は、ライトに映えて神々しいほど(*^^*)(スミマセン、ミーハーで)。
拍手を受けて一旦袖へ。再登場後は一気に前半を弾き切るという凄さでした。
ノクターン(特に2曲目)の美しさ、舟歌の絢爛ともいうべき音の饗宴と深い詩情の共存に、胸を打たれます。思わず拍手したくなるのですが・・・マエストロは続いて子守歌を奏し始めます。ここでも小品に込められたショパンの天才性が、ポリーニの手によって余すところなく光を当てられていきます。ただ溜め息、涙・・・。
そしてスケルツォ3番のグングン胸に迫る激しさと、レースの縁取りのような高音部の限りなく優しいタッチ。プログラムの文によれば、ショパンは「荒々しいところもあるとはいえ彼の演奏を気に入っていた」弟子にこの曲を献呈したとあるけれど、もし、ショパンがポリーニのこの演奏を聴いたら、どんなに喜んだことだろう、と思いました。荒々しさは決して粗々しくならない激しさであり、繊細、緻密さは誰にも真似できない神業、そして表現の豊かさは作品の魅力を語りつくしている・・・。
後半も一気に最後まで突き進むという、緊張感に満ちたものでした。
詩情溢れる前奏曲、聴くたびにその美しさに心打たれるノクターン。ソナタ第2番は、10日よりやや抑えたテンポで始められ、しかしやはり凄演というべき迫力に満ちたものでした。スケルツォ中間部の美しさに新たに心打たれ、葬送行進曲のトリオはまた格別の思いで聴き入りました。プレストはこの演奏の方が判り易かった(?)ような気もしました。
これだけの曲を一気に弾き切るのは、並大抵のことではないでしょう。聴く方としても、思わず拍手したい気持ちを抑え、また咳払いする間もなく(そのせいか演奏中の咳が目立った)、緊張を持続せねばなりません。
けれども、ポリーニが敢えてこう弾いたのは、「ショパンの夕べ」に、“ショパンの全体像”を呈示したかったからかもしれません。「いつも、より身近に感じます」「昔よりずっと自由になっています」と言うように、ショパンはポリーニにとって、常に離れることのない最も重要な作曲家なのでしょう。長いキャリアを通じて得た「自由さ」で、一つ一つの曲をそれのみで完結させることなく、ショパンの真の大きな姿を、絵巻物のように、表したいと思われたのかもしれません。
あるいはマエストロが常日頃、さまざまなショパンの曲をこんな風に、次々に弾いて楽しまれているのかしら、とも、ふと思いました。それほど、ショパンへの共感、尊敬と愛情に溢れた、心のこもった演奏でした。演奏中の表情の穏やかで、また幸せそうだったことが思い起こされます。
それにしても、マエストロはお元気で、より若々しくさえ感じられたのは嬉しいことでした。熱演の後ちょっとお疲れかと思った時もあったけれど、それも演奏の充実感が吹き飛ばしてしまったのでしょう、その後はまたベスト・コンディションで、難曲・大曲の演奏にも余裕すら感じられる「巨匠=マエストロ」そのものでした。
すでに卓越した存在でありながら、なお音楽を追究する意欲に燃え、真摯に音楽と取り組み、迫真の演奏を生み出すマエストロ。プログラムに教育的意図(?)が込められ、緊張感の高い、厳しさのあるポリーニの演奏会。なのに、今年の演奏会はなんとなく柔らかい空気が流れているようでした。
精神の自由度をさらに高められ、謙虚で気取らない人柄がうかがえ、優しく温かい心が感じられた、本当に素敵なマエストロのステージでした。
聴衆にとっても、なんと幸せな、満ち足りた時間だったことでしょう。ホールに集ったのは、本当にポリーニを聴きたい!と熱望するファンばかりだったのではないでしょうか。
アンコールの4曲(「雨だれ」、バラード第1番、エオリアンハープ、練習曲op.10-4)には、そんなファンの熱い心に応えてくれるマエストロの暖かさがあったように思います。
そして何度も舞台に出てくださったマエストロ、最後は右手を胸に当てて礼をしてくださいました。それは、私達の方こそ! 心からの尊敬と称賛と愛を捧げます!!
本当にありがとうございました、マエストロ! これからもお元気でご活躍を!! そして、是非近いうちに、また来日してください!!! また素晴らしい演奏を聴かせて下さい!!!!
Grazie mille ! Tanti auguri ! Ci vediamo presto !