時々の雑記帳

音楽のこと、ポリーニのこと、日々の雑感を、
時々(気まぐれに)、書き入れます。

更新状況もここに載せます。
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このほかの日記帳はこちらを、すぐ前のものは「冬」1〜3月を、次のものは「夏」7〜9月ご覧ください。

(4月〜6月)

花の色はうつりにけりな・・・
真夏のような日があったかと思えば、急に涼しくなる・・・そろそろ梅雨のはじまりでしょうか。5月初め頃のウキウキ気分とはうって変わり、ちょっとブルーな(?)水無月のはじまりです。
ポリーニ・リサイタルから3週間、まだあの日の感動は忘れないけれど、少しずつ思い出と化して来ているのが、なんだか寂しいこの頃です。次の来日まで(いつのことやら)何を楽しみに生きればいいのかしら・・・などと思ったりもしたけれど、現実は日常の諸雑事に追われてシンミリする暇もない、それもまた寂しいことです。新譜を聴いてその新鮮さに感動したり、以前の録音を聴きなおして改めて素晴らしさを噛みしめてみたり、色とりどりの花のような思い出がうすれないように、紫陽花のようにより豊かな色になるように、気持ちを引き立てています。

5月の末に、サントリーホールの「バックステージ・ツアー」なるものに参加してきました。赤い絨毯の廊下の奥「スタッフ以外立入禁止」と綱が張られている、あの先に入れるのです(^^)v
まずはじめに「ホールの誕生」のビデオを見て、簡単な説明と案内の後、昼休みのオルガンコンサート鑑賞です。バッハとその同時代の作品、それから現代の作品。ホール中が一つの楽器となる圧倒的な音、演奏も複雑で難しそう・・・凄い楽器ですね、オルガンって。論理性をとことん突き詰めた極みの形の中に、統御し難い感情が奔流となって渦巻いているかのような、ある種怪物的なもの、それにより神の威光を顕すもの。西洋文明へのキリスト教のもつ強大な力を、耳で、目で、身体全体で感じさせられました。
さて、いよいよ楽屋裏へ。豪華な指揮者・ソリスト用控え室を覗き(でもポリーニの場合は、ピアノのある別の部屋のようです)、舞台から客席を眺め(最後部の座席が意外と近くに感じられ、2階座席の多さもあって、グルッと取り囲まれている感じ、なるほどワインヤード!)、音調室の機器を見て、ソフトもハードもよく整えられたホールであると判りました。
和やかなツアーでしたが、実際に演奏会のある日は、ここ舞台裏は活気と緊張感のみなぎる場となるのでしょう。そして舞台から見た客席、ギッシリ埋まり、期待に満ちた眼差しを一身に受けて、マエストロはどんな風に感じられるのでしょうか。
さてさて、私のお目当ては、アーティスト・ラウンジのサインボード。これは月によって掲示が替わるらしいのですが、あ、ありました! Maurizio Pollini(*^^*) パッと目に飛び込んで・・・と言いたいところですが、さにあらず。ポリーニ・プロジェクトのメンバーと一緒の書き込みで、控え目なマエストロらしいサイン。もっと堂々と書けば良いのにぃ・・・。でも、ソリストとしての活動が多いマエストロには、仲間と一緒にサインボードに記すのも、きっと楽しいひと時だったにちがいない、と微笑ましく眺めました。周囲にはGiacomo Manzoni、Claudia Barainsky、Marco Lazzara(らしい)、11月4日公演の際のものかもしれませんね。このプレートばっかり見つめて他を眺める余裕はありませんでした(同行の方に笑われました^^;)が、他にもビッグネームの直筆サインが全55枚、見応えある壁面です。
このツァーはサントリーホールのHPからも申し込めるようです。平日の昼間にヒマのある方は、参加されてみてはいかがでしょう。

今回の更新では、2005年のスケジュール表を作りました。まだまだ詳細は未定のものばかりですが。この夏のザルツブルクとルツェルンの曲目も載せましたので、ご覧ください。

2004年06月02日 11:26

宝物・贈り物
ポリーニ・リサイタルが終わり、マエストロが帰国され、早くも10日あまり。皆様もう普通(平常心)の生活に戻られましたか。
ポリーニとしては珍しく、10日間で4つの公演。聴衆の方も 期待→感激→興奮→感動→ のサイクルが息つく間もなく繰り返され、夢中で過した日々でした。
終わってしばらくの間、私はボヤ〜ッと抜け殻状態でしたが、感動がまた甦ってくると次第に幸福感に満たされてきました、生涯の宝物となる稀有の演奏会に立ち会えたのだと。
私はこれまでずっと、初来日の時の奇跡のような演奏を聴けなかったことを、悲しく思っていました。もしタイムマシンがあったなら、絶対1974年4月25日の東京厚生年金会館に行くのに・・・(その場合、マシンに乗った人も若返れるんですよネ? エッ、ダメなの!?)。
でも今は「私には2004年横浜・東京公演があるッ!」と思えるようになりました。1974年、それは美しい伝説。2004年、これは輝かしい現実。未来へと続くこの現実を、マエストロとともに(いえ、ずーっ遅れて後について、ですが)進んで行けることを、心から感謝しています。

リサイタルが終わってしばらくの間は、ショパンの曲がさまざまに脳裏に渦巻いて、嬉しいというか、クルシイというか。聴かずにいられなくてCDをかけても、ライヴの威力、そして演奏の進化を思って、満たされないものがありました。
次第に落ち着いてきた今は、ベートーヴェンの新譜を聴いたりして過しています。CD、これはライヴとは違った意味で、やはりポリーニが精魂込めて創り、世に問うた作品、音楽を愛する者には貴重な贈り物です。

作品10の3曲がこんなに魅力的だったとは、このCDを聴くまで知りませんでした。ベートーヴェンの若い日の才能が惜しみなく発揮され、輝かしい曲として結実しているのが、ポリーニの優れた演奏でよく判ります。
絶妙なテンポとダイナミックスで、生き生きしたリズム感で、多彩なタッチで、若々しいエネルギッシュな作曲者像が現れると思えば、歌に満ちたフレージングで、瑞々しい詩情で、繊細な内面性を秘めた若者像が表される。全体を把握した確固たる読みと、細部にまで気配りのある演奏は、ポリーニのこの曲への深い理解と共感を示し、作為のない演奏となって曲の最もよい姿を伝えてくれます。透明感のある音色も凛として真っ直ぐに心に響いてきます。
5番の第2楽章アダージョの美しさ、6番の第1楽章アレグロの大らかさ、7番の第2楽章ラルゴの悲哀と続くメヌエットの愛らしさ・・・聴けば聴くほど好きになる曲たちです。
「悲愴」は、さすがに聴きなれた曲ですが、作品10に連なる初期の作風をそのままに伝えながら、その中でこの曲の完成度の高さ、美しさ、充実度を深く感じさせられる演奏でした。「3大ソナタ」などという取り上げ方では判らない、ベートーヴェンの真意をうかがわせるものではないかと思います。
音楽雑誌の新刊では「レコード芸術」の特選盤(濱田滋郎、那須田務両先生推薦)、「音楽の友」でも、平野昭先生が「今月の一枚」に挙げています。「当然よ」と思いながらも、嬉しいですね。

今回の更新では、スケジュール表にいくつか付け加え、English Scheduleには併せて、ヨーロッパの演奏会でアンコールの判ったものを載せてみました。またリンク集に月村さんのHPと、ホールを数ヶ所加えました。どうぞお訪ねになってください。

2004年05月23日 13:16

Bravissimo!! in Giappone
とうとう最終日。3回の演奏から、現在のポリーニの素晴らしさをまざまざと感じさせられましたが、今日は中1日での公演、お疲れではないかと、一抹の心配もありました。
でも、3日目の最後のバラードの完璧な演奏を思えば、大丈夫! 今日も素晴らしい演奏会になるにちがいない!との予感・期待感も強まります。
この10日間、ポリーニがすべてで、何も手につかない私でしたが、今日はもう全身全霊あげてポリーニの音楽に没入しよう!

「幻想曲」、今日はピアノがよく鳴り、ホール中に次々とファンタジーの波が広がり満ち溢れるような、充実したものでした。今まで私はこの曲になにか苦手感があって、感動したことがなかったのですが(勿論素晴らしい曲とは思うのですが)、今日は熱くなって聴き入りました。音も美しく響き、マエストロの好調がうかがえるスタートでした。
今日の席は右手前方、手は見えないけれど、演奏中の表情のよく見える席です。一心にピアノに向かう集中した顔、時に厳しい表情にはなっても、終始穏やかさのあるお顔でした。 2002年の「熱情」の時など、顔を真っ赤にされての熱演に、マエストロ大丈夫?と心配にもなったのですが、今回は激しい箇所でも(あまり)顔色は変わらず、時おり宙を仰ぎ見るお顔は、ライトに映えて神々しいほど(*^^*)(スミマセン、ミーハーで)。

拍手を受けて一旦袖へ。再登場後は一気に前半を弾き切るという凄さでした。
ノクターン(特に2曲目)の美しさ、舟歌の絢爛ともいうべき音の饗宴と深い詩情の共存に、胸を打たれます。思わず拍手したくなるのですが・・・マエストロは続いて子守歌を奏し始めます。ここでも小品に込められたショパンの天才性が、ポリーニの手によって余すところなく光を当てられていきます。ただ溜め息、涙・・・。
そしてスケルツォ3番のグングン胸に迫る激しさと、レースの縁取りのような高音部の限りなく優しいタッチ。プログラムの文によれば、ショパンは「荒々しいところもあるとはいえ彼の演奏を気に入っていた」弟子にこの曲を献呈したとあるけれど、もし、ショパンがポリーニのこの演奏を聴いたら、どんなに喜んだことだろう、と思いました。荒々しさは決して粗々しくならない激しさであり、繊細、緻密さは誰にも真似できない神業、そして表現の豊かさは作品の魅力を語りつくしている・・・。

後半も一気に最後まで突き進むという、緊張感に満ちたものでした。
詩情溢れる前奏曲、聴くたびにその美しさに心打たれるノクターン。ソナタ第2番は、10日よりやや抑えたテンポで始められ、しかしやはり凄演というべき迫力に満ちたものでした。スケルツォ中間部の美しさに新たに心打たれ、葬送行進曲のトリオはまた格別の思いで聴き入りました。プレストはこの演奏の方が判り易かった(?)ような気もしました。

これだけの曲を一気に弾き切るのは、並大抵のことではないでしょう。聴く方としても、思わず拍手したい気持ちを抑え、また咳払いする間もなく(そのせいか演奏中の咳が目立った)、緊張を持続せねばなりません。
けれども、ポリーニが敢えてこう弾いたのは、「ショパンの夕べ」に、“ショパンの全体像”を呈示したかったからかもしれません。「いつも、より身近に感じます」「昔よりずっと自由になっています」と言うように、ショパンはポリーニにとって、常に離れることのない最も重要な作曲家なのでしょう。長いキャリアを通じて得た「自由さ」で、一つ一つの曲をそれのみで完結させることなく、ショパンの真の大きな姿を、絵巻物のように、表したいと思われたのかもしれません。
あるいはマエストロが常日頃、さまざまなショパンの曲をこんな風に、次々に弾いて楽しまれているのかしら、とも、ふと思いました。それほど、ショパンへの共感、尊敬と愛情に溢れた、心のこもった演奏でした。演奏中の表情の穏やかで、また幸せそうだったことが思い起こされます。

それにしても、マエストロはお元気で、より若々しくさえ感じられたのは嬉しいことでした。熱演の後ちょっとお疲れかと思った時もあったけれど、それも演奏の充実感が吹き飛ばしてしまったのでしょう、その後はまたベスト・コンディションで、難曲・大曲の演奏にも余裕すら感じられる「巨匠=マエストロ」そのものでした。
すでに卓越した存在でありながら、なお音楽を追究する意欲に燃え、真摯に音楽と取り組み、迫真の演奏を生み出すマエストロ。プログラムに教育的意図(?)が込められ、緊張感の高い、厳しさのあるポリーニの演奏会。なのに、今年の演奏会はなんとなく柔らかい空気が流れているようでした。
精神の自由度をさらに高められ、謙虚で気取らない人柄がうかがえ、優しく温かい心が感じられた、本当に素敵なマエストロのステージでした。

聴衆にとっても、なんと幸せな、満ち足りた時間だったことでしょう。ホールに集ったのは、本当にポリーニを聴きたい!と熱望するファンばかりだったのではないでしょうか。
アンコールの4曲(「雨だれ」、バラード第1番、エオリアンハープ、練習曲op.10-4)には、そんなファンの熱い心に応えてくれるマエストロの暖かさがあったように思います。
そして何度も舞台に出てくださったマエストロ、最後は右手を胸に当てて礼をしてくださいました。それは、私達の方こそ! 心からの尊敬と称賛と愛を捧げます!!
本当にありがとうございました、マエストロ! これからもお元気でご活躍を!! そして、是非近いうちに、また来日してください!!! また素晴らしい演奏を聴かせて下さい!!!!
Grazie mille ! Tanti auguri ! Ci vediamo presto !


2004年05月14日 15:35

酔いしれる…in Suntory
昨夜もまたまた感動の夕べでした。音楽の素晴らしさは勿論、その会場に自分がいたこと自体、限りなく幸運な体験だったとしみじみ感じられて、今なおボー然としています。
朝からの雨が夕方には上がりホッとしたものの、ムシムシとなま温かい空気が身に纏いついて、不快指数も高そう。こんな日はピアノの調子を最良に保つのは難しいのでは・・・。そして6日の演奏後、お疲れのご様子だったマエストロは、お元気になったかしら、と気がかりでした。
でも、舞台上にFabbriniの金文字の光るグランド・ピアノがどっしりと置かれ、準備万端整った様子を見るうちに、心配は期待感に変わり、大丈夫、マエストロもきっとスッキリ体調を快復されている、と思えてきました。

7時を5分ほど過ぎた頃、まだ会場がシ〜〜〜〜ンとしていない内に、マエストロはしっかりした足取りでにこやかに登場。ホールの雰囲気も、張り詰めたというより、なにか柔らかさがあるようです。もちろん期待感は一杯に、いよいよショパン・プロの開始です。
1曲目「幻想曲」、ピアノの音は美しいけれど、少し響き足りない感じでした。熱演なのになんだかノッていない感じのポリーニ。拍手、一旦袖に下がって再登場。
しかしそれからです、切れ目なく(途中で1回拍手したっけ)ノクターンからスケルツォ3番まで、次第に調子を上げヒートアップしていくのです。
Op.55のノクターンは静謐な夜というよりも、夜の闇に潜むものに心乱されるような、艶やかさと熱さのある曲。魅惑的でした!
拍手したかったけれど、ポリーニはすぐ舟歌を弾きはじめます。あの最初の和音を生で聴きたいと熱望していましたが、やはり豪華・重厚でありながら透明感のある独特の音でした。曲が進むにつれ、華やかな曲想に、深い詩情に、音の美しさに、さまざまなタッチに、技巧の冴えに、魅せられて聴き入りました。いやぁ、傑作ですね、本当に。曲の光と影を描き分け、その奥深さ、美しさを際立たせた名演でした。
「子守歌」も弱音がなんとも美しい、優しい演奏でした。でもこの曲聴いて眠る子って、いるのかしら? ショパンの音楽は、名前が付いてはいても「子守歌」も「舟歌」も、そのリズムに乗ってはいても、やっぱり絶対音楽なんだと思わされます。
そして前半の最後を飾るのは「スケルツォ第3番」。よくアンコールで弾かれる(ポリーニの演奏会で、ですが)けれど、こんな曲をよくもアンコールで!と思わされる、重厚で激しく、スケールの大きな演奏でした。音色の美しさは少しも損なわれることなく、高音部から花びらのように舞い落ちる音は、小粒の宝石が煌きながら落ちるよう。完璧な技巧で、完璧な表現。ホール中を怒涛に巻き込むような圧倒的な演奏に、前半しか終わっていないのに、熱烈な拍手とブラヴォーが飛び交いました。

休憩後はさらに絶好調なマエストロの凄さを実感できました。前奏曲op.45の美しいこと!完璧なコントロールのもと、精緻な音が命あるもののようにポリーニの指先から生まれます。
夜想曲op.27の1は久しぶりに聴く曲、美しいフレーズに陶然とし、27の2は何回聴いても飽きることのない美しさ。ポリーニの演奏は決してマンネリ化せず、いつも新たな魅力にふれさせてくれます。
拍手、すぐに再登場のあとはソナタ第2番。ピアノの前に座るや否や弾きはじめるポリーニ。第1楽章のテンポはやや速く、推進力溢れるものですが、同時に重厚さに裏打ちされて、壮絶な音楽を展開していきます。興奮のうちに過ぎ去る第2楽章。そして深々とした音で大きな息遣いで進む葬送行進曲、トリオの美しさは筆舌に尽くしがたいほど。ため息をつきたいけれど、すぐ続く渦巻く風のような不可思議なフィナーレに、息をつめて聴き入りました。完璧でした。

割れるような拍手に、輝く笑顔で応えるマエストロ。こんな凄演にも、疲れの様子は見えず、満足そうなご様子に、私達の喜びもなお大きくなります。
アンコールは「雨だれ」(今日は朝からしとしと降っていたっけ)。心の底に染み込むような美しさでした。次に練習曲op.10-4、今日も完璧。鳴り止まぬどころかますます高まる拍手に応えて「はいはい、もう1曲弾きますよ^^」って感じではじめるバラード第1番。完璧な技巧、豊かな表現力、理想を眼前に見るような美しさ・・・奇跡の名演でした。

本当に、なんと素晴らしいリサイタルだったことか! もうこんな僥倖のような経験は2度とできないかもしれない、と思います(もちろん、12日にも大いに期待しますが)。それでも良い、この感動を決して忘れることはないでしょうから。
何度も舞台に出て来てくださったマエストロ。ありがとうございました。聴衆の感動を、歓びをご覧になりましたね。皆あなたが贈ってくれたもの。私達の感謝と称賛の拍手が、あなたの満足になり、喜びになり、元気の元になりますように!!

2004年05月11日 22:45

至福の夕べ in Akasaka
昨晩は眠れませんでした。頭の中でベートーヴェンの第7番ソナタが駆け巡っていて・・・といっても切れ切れにいろいろなフレーズが浮かんでくるだけですが(「悲愴」と「幻想曲」はシャットアウト、だって絶対に眠れなくなるもの)。
第2楽章を思い浮かべたら寝られるかも、第3楽章でも良い夢路に入れそう・・・いやどうせ眠れないのなら、起きてCDを聴こうかしらなどと思ったりしているうちに、夜が明けてきました。
あんなに凄い演奏をしたマエストロは、興奮して眠れない、なんてことないのでしょうか。それともスッキリして熟睡していらっしゃるかしら。きっと奥様や親しい方とディナーをとって、ワインを飲んで、煙草も吸って、リラックスしてお寝みになったことでしょう。
お疲れが全部取れますように! すっかりリフレッシュなさいますように!

昨夜の演奏会は本当に凄かったです。
3日の横浜のリサイタルは本当に素晴らしいもので、彼のパワー、テクニックの完成度など真の実力が、充実した音楽の中に「理想的」な姿で現わされた、聴く者に幸福感をもたらす演奏会でした。
昨夜のリサイタルも基本的には同様ながら、更にテンション高く、一歩を踏み越えてしまった、そう、「奇跡」へと歩を進めた演奏でした。感動、歓喜、そして幸福感。涙が出るほどです。

サントリーホールは舞台上に、やはり音大生の席を設けてありました。若葉シートという、「若い世代に聴かせたい」配慮とは別に、マエストロは若い音楽家の卵たちに、間近でご自分の芸術の全てを提示したいのでしょう。彼らの感想を、一度聞いてみたいものです。

シェーンベルクの6つの小曲は珍しく少し間をとって奏され、それぞれの曲想がよく判りました。6曲目の鐘の音の繊細な美しさ。今日も美しい透明感のある音です。でも横浜で聴いた時の方が、粒立ちが良くスッキリした印象。こちらはより円やかで豊かさのある音、と感じられました。
その音の印象、ホールの響きもあるのか、ベートーヴェンのソナタはより重量感を増したように思われ、「悲愴」の激しさはより強烈に訴えかける力を持ち、圧倒的ともいえる名演でした。
充実した前半を聴き終えて、このプログラムは頭でっかち(前半の方が重い)ではないかしら、などと思ったのですが・・・。

とんでもない! 後半、特にシューマン「幻想曲」はまさに凄い!演奏でした。第1楽章、輝かしい音が描き出すファンタジーの宇宙の壮麗さ。第2楽章の躍動感に満ち、推進力にあふれた進行。優しい夢のような、夢の中で花が開くようなフィナーレ。
瞬きもせずに、息もできずに(してましたが)全曲を聴き終えたという気がします。こんなにロマンティックでありながら、こんなにブリリアントでありながら、こんなにどっしりと手ごたえのある曲だったなんて! ピアノの音色もこの曲にピッタリだったのかもしれません。

弾き終えて満足そうなマエストロ。輝くような笑顔で全方向に礼をして拍手に応えます。でも、袖にさがる後ろ姿に疲労が見えるよう。
これだけの入魂の力演・熱演ですもの、もう何も望みません、と思いつつ、やはりアンコールも聴きたい。拍手の手に力が入ります。マエストロ自身「もうこれでお仕舞い」と思っていたのでしょう、何度も舞台に表れてにこやかな顔を見せてくれるけれど、そのまま袖に帰ってしまいます。でも、なお鳴り止まぬ拍手に、ついに、負けました、って感じでピアノへ。
ノクターン第8番。なんと美しい演奏だったことか。心の奥に染み渡り、満たされて、感謝の思いが湧いてきました。
マエストロ、これで充分です、満足です、どうもありがとうございました。

この奇跡のような名演がラジオで放送される? 本当に嬉しいことです。一期一会のこの夕べをもう一度味わえるなんて。録音は永久保存の宝物ですね。

2004年05月07日 22:55

幸せな夕べ in Yokohama
昨日の「悲愴」。Graveの打鍵の気迫のこもった力強さに圧倒されました。CDではずいぶん“あっさり”弾き始めているように思ったのですが、実演は凄い!です。私にはテンポもCDより少し遅めに聞こえたのですが、他の方の意見では同じか、少し早いかとのこと、ライブの迫力を目にし、耳に浴びて、その重量感からそんな印象を得たのかもしれません。Allegroはやはり速めで推進力ある演奏、軽やかな音で淀みなく進みながら、ダイナミックさも充分に表現されていて、奔流に押し流されるような感じで聴いていました。第2楽章は心からの美しい歌を堪能できました。余計な思い入れで肥大化したり、水っぽくなることなく、楽譜をそのまま音にしたら、こんな清楚な心にしみる歌があるのだ、と思われる演奏。哀しみを秘めた蒼い色の空が、どこまでも広がっているような・・・。第3楽章はCDよりさらに早め、明らかに速い!と思われるのですが、前のめりというのではなく、ポリーニが完全にノッていて前に前に進もうとする感じが窺えます。曲が短いので「あぁ、もう終わってしまう・・・」と惜しいような気も。それにしても本当に素晴らしい曲、稀有の名演でした。前半だけでもう、ずっしりと重い嬉しい手応え。
ソナタ第7番はCDで聴いたとおりの美しい端正な演奏でした。でも、ライブはやはり迫力が違う!ポリーニの声もはっきり聞こえたりするし。第2楽章はより深みある音楽となり、後期作品の緩徐楽章のようにも想われます。第3楽章の愛らしいメヌエットは優しい音色で奏され、生き生きした表情は幸福感をもたらします。最終楽章のウィットは若いベートーヴェンの人間味を感じさせて、この曲が個性的で独創的な名曲であると、つくづく思わされました。曲の真価が表されたポリーニらしい優れた演奏、この集中力に満ちた演奏を聴いていて、今日の前半のメインはこれかしらと思ったりしたのですが・・・ところが次いで奏された(ポリーニは一旦袖に下がったものの、すぐに再登場してピアノに向かいました)「悲愴」がさらに凄い演奏だった、というわけです。
初期作品に相応しい音色として、CDでも軽やかなスッキリした音が採られていると思うのですが、このホールの響きは残響が少なめなのでしょうか、クッキリした純な音が響きます。水を打ったように静まり返った中で奏された最初のシェーンベルクop.19も、精妙な和音のピアニッシモの音の美しさが際立っていました。ポリーニも満足して弾きはじめたのではないかと思います。最初に登場して客席に一礼する時に、笑顔を見せてくれるなんて。
弾き終わってからの笑顔にも充足感が窺えて、聴いていた私達も満足感、幸福感がいや増す思いでした。

後半はシェーンベルクop.11から。このところよくシューマン「幻想曲」に先立って奏される曲です。正直言って私などには、その意図がよく聞き取れないのですが、ベートーヴェンの後にすぐ(休憩があるとはいえ)シューマンの世界に触れるのはキツイような気もするので、虚心にその音に耳を傾けました。もちろんポリーニの演奏は、耳慣らし、指慣らしなどというものではありませんが。
いよいよ「幻想曲」。ピアノの前で珍しく下を向いて集中するマエストロ。そして響き渡る和音。その輝かしさと密度の濃さに、たちまち引き込まれます。会場中の心臓をわしづかみにしているような(少なくとも私の心臓は)緊迫感あふれる演奏でした。ブリリアントな音色で渦巻くような第1楽章。躁的な快感をもって力強く進行する第2楽章。優しい深い音色で始り、昂揚し、静かに終わりを迎えるフィナーレ。会場中が詰めていた息を吐き、爆発するような拍手。一夜の力演にさすがにお疲れとは思うけれど、満足そうな笑顔のマエストロの姿が嬉しい。
アンコールは? なんとシューマン幻想小曲集から「飛翔」。エッ!?と嬉しい驚きでした。 次にショパン「夜想曲第8番」。ポリーニのお好きなアンコール曲、でもこの後のショパン・プロに入っているので、昨日聞けるとは思いませんでした。しっとり落ち着いたテンポで、高音のフレーズの宝石が煌きながらこぼれるような音の美しいこと。何度かアンコールで聴いた中でも最高の演奏でした。なおも鳴り止まぬ拍手に応えて、練習曲第4番。迫力に満ち、唖然とするほどの完璧さ。ありがとうございました、マエストロ。本当に聴き応えのある素晴らしい演奏会でした。

最初に舞台に歩み出た時から、足取りも表情も、お元気そうに見えましたが、演奏が始って、好調であることがはっきり判るマエストロでした。来日されてからあまり間がないので、体調は・・・と心配でしたが、杞憂でした。これからのサントリーホールでのリサイタルも、楽しみですね。ピアノも良い状態に調律されて、素晴らしい響き。Fabbriniさん、ありがとう。

2004年05月04日 14:58:59

Im wunderschoenen Monat Mai
とうとう、美しい5月になりました。青い空、暖かい(熱い!)陽射し、花々も、鳥のさえずりも、ワクワクした気持ちに応えてくれているようです。新譜も発売になり、ライブで聴くソナタへの期待もますます高まっていくばかり。GWは家でじっくり予習(?)して、プラチナ・ウィークに備えるぞ!と張り切っている私。皆様はいかがお過ごしですか。

数日前、新聞の朝刊に「ポリーニ来日」の文字。エッ!・・・と思えば“5月6日残席僅少”との広告でした。今頃こんな広告を見ることが「エッ?」ですが、本当にもうマエストロは来日されたのかもしれない、この日本の空の下にいらっしゃるんだ・・・と思うと嬉しさがこみあげてきました。
実はマエストロ、この春先、体調を崩してケルンとブリュッセルの公演をキャンセルしていました。その公演を楽しみにしていたヨーロッパのファンの方から、メールで悲痛な“お知らせ”が来ていたのです。
早く快復なさいますようにッ!と祈った甲斐あって(?)幸い次のベルリン公演は行われ、調子も上々で“FANTASTIC!!!!”な素晴らしい演奏だったようです。
ミュンヘン、ローマ、そして25日のアムステルダムの公演を終えて、程なく日本へと旅立たれたのでしょう。世界情勢も不穏で心配でしたが、無事に到着されたようで一安心。爽やかな初夏の日本で、体調を整えて、横浜での初日を迎えていただきたいですね。

ローマではインタヴューがあり、ショパンについて語っています。
「ショパンは唯一の人です。先達もなく、後継者も残さず、彼の経験は完全に彼一人のものでした」
「私はいつもショパンをとても身近に感じています。すべての大作曲家と同様に、彼はとても広い表現の領域を持っています。私の古いレコーディングを今聴くと、現在は彼の複雑さがより明晰に判ります。そして私はずっと自由になっています」
ショパンは素晴らしい抒情詩人とばかり見られているが、同時に並外れたドラマティックな力も持っている、とポリーニは語り、「彼は世界中を感動させ、惹きつける表現力を持ち、即座に魅了する力を持っています。それは奇跡のようなピアノの書法に因るのです。しかし彼には、捉え難いインスピレーションの本質と、それを伝える能力の間に相違(コントラスト)があるのです。彼の音楽の中に、この2つの面が共存しているのです」

そして数日後の公演評は“ポリーニはまるでショパンであるかのように弾いた”
「まさにヴィルトゥオーゾ像そのものだが、聴いているうちに、“音楽家”のイメージになってくる」
「ポリーニの手(精神)によって、24の前奏曲は、まるでショパンが草稿を書いた時のように、淀みなく流れていった。虚飾も無く。懐かしさと哀しみの想いが心によぎった。」

今回は「2004-2005 Season」のページをUpしました。いろいろな情報をお知らせ下さった海外のファンに感謝しつつ。詳細はまだ判らないものが多いのですが、ベルリンとウィーンでの「協奏曲」に興味を惹かれます。

2004年05月01日 11:17:07

さくら、桜、Sacra
満開の桜の下を歩く人たちは、皆なんだか幸せそう。桜並木の続く川沿いの道は、春の陽射しのもと、華やいだ空気につつまれていました。今年の花はいつもより早く咲き始めたものの、花冷えに身をすくめ、やっと今満開となりました。四月、新しいスタートの時に合わせたように。
春はいつも心ときめく季節ですが、今年はいっそう嬉しい・・・。ポリーニのリサイタルまで、ついに1ヶ月をきりました。数日後には桜吹雪が舞い、若葉が姿をあらわすでしょう。若い緑が枝々にあふれ光る風にそよぐ頃、美しい五月に、マエストロのピアノが聴けるのですね。今月の末には、もう来日していらっしゃるかもしれない・・・。

今月の末には、待ちに待った新譜もいよいよリリースされるようです。「悲愴」は多くのピアニストの演奏する曲だけれど、ポリーニの手になるとどう響くのか、楽しみです。5・6・7番はCDも少なく、私はあまり聴いたことがないので、少し予習してみようかと思うのですが、皆さんのお勧めの演奏は、ありますか。

前回少し「検索」に触れましたが、また一つそれで見つけた記事。ロヴェレートでのイースター音楽祭に、Emilio Vedova(画家)へのオマージュとして“pianista Maurizio Pollini ”演奏、との記載が。
エ〜ッ、ウッソ〜! そんなスケジュール、DGサイトにも、イタリアの音楽情報サイトにも載っていないのに・・・。スタイル、ジャンル、時代を超えた音楽の融合を目指すってコンセプトらしいから、ポリーニ好み(?)かも。急に出演することになったのかな・・・? でも今、マエストロは・・・。
不思議に思って他を探ってみると、真相(オーバーな!)が判りました。
ノーノの"...Sofferte onde serene..."を他のピアニストが演奏するのですが、テープについて「ポリーニ演奏による」と書かれていたのです。そういう場合は実演するピアニストGiovanni XXXXさん(すみません、忘れました^^;)の名を出すべきでしょうがッ! 人騒がせな記事です。
でも、ノーノのこの作品、「ポリーニによる、ポリーニのための」というイメージがありますが、他の演奏者も取り上げているのですね。そうして受け継がれ、広く演奏されていく、それが判ったのは嬉しいことでした。
ところでこの音楽祭のコンセプトは前に少し触れ、また、現代音楽に重きを置くようなのですが、モーツァルトのレクイエムをロック風に“Rockquiem”として演奏(ハイドン交響楽団とロックバンドの共演)するとか。ポリーニはそういうのを、どう思うかしら・・・。

今回の更新では、パリのシャトレ座の曲目を訂正しました。前回のものはやはり誤報でした。今度はロマン派のプログラム、ショパンのノクターン作品48が入っている・・・。若い日にショパン・コンクールで弾いた曲、でも近頃の演奏会ではあまり取り上げなかったあの美しい曲・・・聴きたいですね。ノクターン全集の録音も、是非お願いしたいですね!
それからシエナの夏の音楽祭の日程も。2001年以来毎年訪れている、中世の面影の残る美しい町。きっと、ポリーニのお気に入りの都市なのでしょう。

2004年04月04日 14:23:52

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