空気は冷たいけれど穏やかに晴れた三連休(北の方では大荒れのようですが)、皆様秋の日を楽しんでいらっしゃいますか。
1年前のこの休日、虚脱状態でただただ「マエストロに感謝の日」だったように記憶しています。今年は少し家人にも、感謝しなくては・・・。
ワールド・ピアニスト・シリーズの発売を前に、5月のプログラムがひとつ発表されました(ポリーニ・ファンなら例え曲目未定でも購入すると思いますが)。素晴らしいオール・ショパン・プログラム、本当に楽しみですね。ファン・サービスとも言えそうな魅力的な曲ばかりですが、でもポリーニは、単にアレもコレもと並べるのではなく、現在の彼のショパン像を一連の曲を通じて、クッキリと描き出してくれることでしょう。
ポリーニのプログラム・ビルディングの巧みさ、意味深さについてはいつも言われることですが、近頃のポリーニはより自由に、弾きたい曲、聴かせたい曲を選んでいるように感じられます。ベートーヴェンとショパン、ベートーヴェンとドビュッシー、ショパンとドビュッシー、シェーンベルクとシューマン、ショパン等、多彩なプログラムを融通無碍に組んでいます。
一見すると、前半・後半に分かれた演奏会、しかし、聴いてみるとポリーニの意図、というと語弊があるかもしれないけれど、彼のある意思の貫かれた演奏会。ポリーニの広い視野と深い読みによって、新たな光が当てられ、音楽の潮流が感じ取れるようなリサイタルとなるようです。彼の愛する全ての曲は、時代別、流派別に隔てられて存在するのではなく、有機的に結びつきながら、彼のうちで生き続けているのでしょう。
今月初めのシュトゥットガルトのリサイタルも、聴衆に大きな感銘を与えるものだったようです。
知的 にも拘らず 情感深く
Oscar Bieという音楽評論家が、シェーンベルクの作品11を以って、ピアノが“全部の音楽の鏡”としての使用、つまらぬOrchestrion(自動ピアノ?)としての使用をついに終わらせた、と賞賛し、作曲家をピアノのオリンポスへと昇らせている。彼にとっては無調性の誕生よりも、ピアノの独自性の表明が重要だったのだ。
Bieの理想に忠実に、長いピアニストのキャリアを通じて音楽のフォルムを熟考し、内なる耳で細心に探ってきたのがポリーニである。彼の演奏会はその伝説的なシェーンベルクの作品で始まり、極限まで行く傑作と成した。
ほんの少しロマンティックなカンタービレを、またロマン的にするペダルの使用にわずかに耽ることを、彼は自らに許す。2曲目は、リストの「悲しみのゴンドラ」へと様式的に近づける。響きの領域で、こうして19世紀的な評論にパスさせる。しかし彼は示すのだ、シェーンベルクは見かけの親しげな外観の下に、20世紀的な構造上の深淵を穿っていることを、テンポの構築物を、新しい無比の錨として、耳に投げ込んだということを。
こうして始められた演奏会では、作品11より70年前に作曲されたシューマンの幻想曲が、突如として非常に現代的に−もしかしたらシューマン自身が夢想しなかったほどに−響いた。それはこの夕べにポリーニが調えた一連の、演奏により驚かせることの一つだ。
シューマンはこの曲を、全てのピアニストの中で最も大胆なリストに献呈した。ヴィルトゥオーゾ的に演奏されるべきである。ポリーニにあっては、もちろんこうではない。彼は、煽情的にざわざわと音の滝を登ることでAhとかOhとか(の感嘆)を狙うアーティストではないのだ。
この曲でもまた熟慮されたテンポがあり、耳を惹きつけられた。最初の和音を、これほど情愛深く、これほど沈着で、これほどファンタジーに満ちたエネルギーで炸裂するように、聴くことがあるだろうか? このエネルギーを頭にすえて、シューマン的な響きのファンタジーの宇宙を、一瞬にして輝き渡らせる、そんなことを成すピアニストがいるだろうか? ポリーニのテクニックの輝かしさはつねに完璧ではなかったとしても、それは少しも妨げにはならなかった。
最後に、彼の大いなる音楽の愛、ショパンを、ポリーニは愛情深く、だが厳しい知性を全く放棄せずに、またそれを望みもせずに、演奏した。
幻想曲を、熱狂的なエネルギーでリズムの爆発の際まで駆り立てる。ショパンの音楽にいかに多くの険しさを求め得るとしても、その清らかで繊細な精神的要素は損なわれることはない。
またノクターンで、舟歌で、子守歌で、ポリーニが明らかにしたのは、古典的な禁欲性を共にし、しかもなお領域の限界を広げる耳を持つことで、ショパンは彼と最も近い(似ている)ということだ。スケルツォ第3番でついに、ラヴェルの“スカルボ”がショパン作品の自然の継続と彼が見なしていることに、ポリーニは何の疑いも与えなかった。
さあ、シェーンベルクはどう言ったろう?「ある観念は決して消え失せることはできない」
スタンディング・オヴェーションと3つのアンコール、勿論、ショパン。
(Annette Eckerle, Stuttgarter Zeitung, 2003.11.12)
このリサイタル後半のショパンは、5月の日本で聴くことができます。楽しみですね。
今回の更新は、スケジュール表にいくつか日程や、プログラムを付け加えました。