ポリーニ・インタビュー 3

ルービンシュタインについて語る
「美しさの啓示」

マウリツィオ・ポリーニが1960年ワルシャワでショパン・コンクールに優勝した時、アルトゥール・ルービンシュタインは名誉審査委員長だった。それで、通例によって二人の偉大なピアニストは相見えたのである。ルービンシュタインは年若い同僚を非常に高く評価した。そして確かに、偉大なショパンの演奏者として、ポリーニをルービンシュタインの後継者と見なすことが出来るだろう(参照:DGに録音したショパンの作品集、最近発売されたバラード第1〜4番)。
ルービンシュタインはどのような印象(感銘)をポリーニに遺したのか、ベルリンでグレゴール・ヴィルメスに語った。

Gregor Willmes(GW):最初にアルトゥール・ルービンシュタインとお会いになったのは何時ですか?

Maurizio Pollini(MP):アルトゥール・ルービンシュタインは最も卓越したピアニストの一人でした。それは私が10代の頃、ミラノの演奏会で経験したことです。彼がショパンの第2番の協奏曲を弾いたことを――私が初めて聴いた時なのですが――今でも思い出します。それは私にとって一つの啓示、人がピアノで表情豊かに(カンタービレで)演奏して得られる美しさの啓示でした。私にとって、作曲家の観念を現実のものとする(演奏する)時、人が生み出すことのできる完璧さの一つの典型でした。それで私はこの頃ルービンシュタインを度々聴きました。 それから私はショパン・コンクールに参加して、彼に会いました。彼は私にとても親切でした。非常に気持ちの良い人で、そう、一緒にいると幸せで、共に楽しく語り合って時を過ごしたくなる、そういう人柄でした。全く無比の人でした。そうして私達はなんとなく(自然に)友人になりました。それ以後、彼が演奏活動からすでに引退してしまった後も、彼の晩年にいたるまで何回もお会いしました。

GW:40年後の現在、ルービンシュタインの演奏についてどうお思いですか? 彼のピアノ演奏の流儀の特質は何でしょうか?

MP:私にとって彼は非凡な人でした、いかなる状況にあっても考えうる最も美しいピアノの響きを引き出すことができたのですから。この意味において、全ての彼の演奏会はあらゆる人にとって悦びの時でした。その上この人の独特の性格に、彼が楽器を演奏する時の幸福感に、私は魅了されました。しかしそれはもう明らかなことです。私達は彼を、多くの作曲家達の偉大な解釈者と見なさなければなりません。

GW:ショパンの演奏法は、今日ではルービンシュタインの時代とは何か違っていると、お思いですか?

MP:不思議なことに、偉大な作曲家の解釈(演奏)は、いろいろな時代で変化しています。私達が望まなくても、ひとりでに。様々な個性、様々な素質にもよるでしょう。私はまた別の偉大なショパン弾きがいたと思います、例えばアルフレッド・コルトーです。ルービンシュタインは確かに特別の役割を果たしました。つまりショパンを現代的に演奏して成功したのです。19世紀末のピアニスト達の演奏法と比較して、彼はより現代的な素質を持っていました。彼はショパンの音楽の中で、真の表現の豊かさに出会いました。しかし彼はそのたぐい稀な素晴らしい方法で、私達にショパンの音楽の具象性を明らかにし、同時に、構成に対する非凡で完璧な感覚(意思)を示すことが、十分にできたのです。これはショパンの音楽の一つの特質ですが、全ての演奏で得られるわけではありません、なにしろとても難しいことですので。しかしショパンが一つの音をも、絶対に必要なものより余分にも、また少なくも書かなかった、ということは、とても重要な観点です。それがこの作曲家の偉大さの一部をなすからです。ショパンはあらゆる作品において完璧を求めて努力したのです、再三再四、力を傾注し尽くして。そしてこのショパン作品における形式と構成の完璧性を、ルービンシュタインは全く申し分なく明らかにしたのです。もうひとつ別の観点もあります。彼はショパンの音楽をまさにそれが作曲されたように、十分にドラマティックに、大きな力で演奏しました。その力は全く自然で、ピアノから素晴らしい音の強さを引き出しました。彼はしばしば書いています、特に若い頃の活動において、3倍のフォルテのことを。女性的な作曲家というきまり文句とは対照的な、ショパンの音楽に在るこの力を、ルービンシュタインは獲得したのです。彼はこの偉大な作曲家の、はるかに完全で真実な肖像を、私達に与えることができたのです。

(「FONO FORUM」02/00 より)

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